「剣八だよな…?どうしたんだ?ここ現世だぞ」

まさか迷ってついにここまで来たのか…?とハッとした顔で言い始めたから、それまでの道程で大分鬱憤が溜まってた俺は問答無用で一護に拳骨をかました。

「〜〜〜っ!!?」

言葉も出ないほど痛かったようだがそりゃあそうだ、痛くしてんだから。

「流石にここまで迷いやしねェよ。馬鹿にしてんのかテメェは」
「馬鹿にはしてねぇけどさ…あー、痛てぇ………」
「ここに来たのは任務だ」

涙目で殴られた頭を押さえながらこっちを睨む一護は無視してそう言うと、「任務って…こっちに来たのはアンタだけなのか?一角とか弓親は?」と言いながら、キョロキョロ辺りを見渡していた。

「来てねェよ」
「ホントにアンタだけなんだな…やちるもいねぇし」
「…まあな」
「ふーん…」

ようやく納得した様子の一護に「ウチ寄ってくか?お茶くらいなら出すぞ」と言われたが、散歩の目的は一護に会うことだったしそれが達成された今はもう寄る理由もないので断った。

「泊まるところあんのか?」
「おう。こっちにいる間は浦原ンとこに世話になる」
「そうか…ちょくちょく遊びに行ってもいいか?」
「俺は構わねェ。あの店の下にゃだだっ広い場所もあるからな…手合わせも大歓迎だぜ、一護」

一護との殺り合いを思い出して知らず笑みが浮かぶ。
それを見てなのか、一護も思い出したのか「……か、考えとく」と若干引き攣った顔で声を絞り出していた。

「そういえば、ずっと疑問だったんだけどよ」

何故か浦原のとこまで一緒に行くと言い出した一護にそう切り出されて、「なんだ?」と返した。

「隊長格は尸魂界にいる時より霊圧を制限されるってのは恋次から聞いてたんだけどさ。剣八って向こうにいても眼帯で制限してたじゃんか」
「おう」
「でも今は眼帯着けてないだろ。なのに、アンタの霊圧が殆ど分かんねぇのはなんでだ?」

さっきも一瞬分からなかったんだよな、と唸る一護に、「こいつだ」と技術開発局から支給された特別製の腕輪を見せた。

「こいつが眼帯の代わりだが、眼帯以上に霊圧を喰ってる。それに限定霊印もついてるからな……多分だが今の霊圧は平隊員くらいだろうよ」

おかげで動きづらくてめんどくせえ…とボヤくと「隊長ってのも大変なんだな」と苦笑いを返された。

そんなこんなで店に到着したので、そこで一護とは別れた。
扉を開けようとする前にガラガラと開き、「あ、おかえりなさい」と浦原が顔を覗かせた。

「夕飯ができたんでそろそろお迎えに行こうかと思ってたんスよ」
「……俺は迷ってねェぞ」
「アタシはまだ何も言ってませんよ?」

更木サン迷ったんスか?と扇で口元を隠しながらクスクス笑う浦原の脛に無言で蹴りを食らわせると、浦原は声なき悲鳴を上げてその場に蹲った。

「〜〜っ…!!ひ、酷いっス……」

痛む箇所を押さえてこちらを見る浦原に(さっきもこんな光景見たな)と思いつつ「うるせェ」と返した。

「さっさと来いよ。飯が冷める」
「酷だ……更木サンの所為なんだから運んでくださいっ!」
「テメェがいらんこと言うからだ。自業自得だろ」
「ひどいっ!?」

オヨヨ…と泣き真似をする浦原は涅の元上司らしいが、だからというべきか。涅以上に掴みどころがない。
ウザったい野郎だ全く。
相手をするのも疲れるので無視してそのまま店の奥へ行こうとすると「無視は一番酷いッス!!」と聞こえたのもつかの間、いつの間にか浦原は目の前に立っていた。

「やっぱり大丈夫じゃねぇか」
「まだ痛いッスよ…全くもう」

少しは手加減してください、と言われたが聞く必要は無いだろう。

(晩飯、なんだろうな…)

まだあーだこーだと文句を言っている浦原の言葉を右から左へ聞き流しつつ、奥に行くにつれてだんだんと強くなるいい香りを嗅ぎながら夕飯へと思いを馳せていた。


続く



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