地獄蝶を道標に現世へ着いた。
周りを見渡して、とりあえずその辺の屋根に据わった。

「おぉ〜い!」

こっちッスよ〜!と下方を見ると変な帽子を被った胡散臭い野郎…浦原がこちらへ向かって笑顔で手を振っている。

「……?」

思わず後ろを振り返って誰もいないことを確認すると慌てて「更木サーン!」と呼ばれた。

「なんだ」
「なんだじゃないッス!義骸と伝令神機をお渡しするんで、降りてきてくださーい!」

早くしてくんないとアタシが変な人に見られるー!と喚き散らす浦原は滑稽だったのでしばらく見ていたいと思ったが、余りにもギャーギャー騒がしいので降りることにした。

「じゃあとりあえず…義骸に入っちゃってください!」
「なんでだ」
「なんでって……アタシが変な人に見えるからッス」

一般人には貴方の姿は見えませんから、と言われた。
「今も十分変だぞ」と出かかったが、また騒がしくなるのは御免だから黙って渋々義骸に入った。

「義骸ってのは動きにくいな……で、なんだこの格好」
「作業着ッス。上下が繋がってるんで、履きやすくて脱ぎやすい、って代物です。脱ぎ方はこの持ち手をこう…下に下げると脱げます。慣れるまでは面倒でしょうけど、慣れちゃえば楽ッスよ」

似合いますよ〜♪と言っている浦原を無視して、グルグル腕を回したり屈伸したりしてみる。
死覇装とは違ってぴったりとくっつく布が煩わしい。

「義骸には慣れました?」

いつの間にか黙っていた浦原が、どこから出したのか分からない扇で口元を隠しながら声をかけてきた。

「ある程度は。……よし」

手をグーパーさせて、握り具合を確かめる。

「もう大丈夫だ」
「それは良かった。アタシの用事は終わりましたし、折角なら町内を散歩がてら黒崎サンにご挨拶してきては?」
「黒崎……?」

誰だったっけか、と疑問符を浮かべているのを見かねた浦原に「……一護サンですよ」と呆れたように言われてようやく合点がいった。

「あぁ一護か。そういえばそんな名字だったな」

忘れてた、と言うと今度はもう何も言わなかった(呆れた視線を投げてきたが知らんふりだ)。


寝泊まりは『部屋は余ってるんでぜひ気軽に使ってくださいッス♪』と浦原が言っていたので遠慮なく使わせてもらうことにした。
それにしても現世ってのは道が入り組んでて分かりづらい。

(どこだここは)

浦原は『わりと近いッスよ〜』と抜かしていたが、いつまで経っても辿り着かない。

(この辺の家をぶっ壊していったら分かりやすいんじゃねェのか?)

そんなことを考えるほどイライラが募る。

「…剣八?」
「あぁ?」

そんな時に名前を呼ばれ不機嫌丸出しで声のほうを向いた。

「……なんだ、一護じゃねぇか」

そこには、今しがたまで迷っていた原因である一護本人が不思議そうな顔をして立っていた。

続く



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