おまけの話。


斑目一角の一日は自隊道場で部下に行う稽古から始まる。
午前中に稽古をして、昼は食事と睡眠。
午後は書類業務。
書類が片付くと鬱憤晴らしに定時まで稽古。
その後は部下もしくは弓親や、他隊の気の合う連中と飲みに行く、というのがいつもの一日だった。
それは非番の日も変わらず、しないのは午後の書類業務くらいだ。
副隊長になったことで宛てがわれた邸宅は広すぎてなにを置いていいかも分からず、部屋の大半は空のままだ。
広い縁側で杯を傾けながら一角は考えた。

喧騒が常だった日々が急転したのはあの戦いの後だ。
自隊隊長にいきなり「今日からお前が副隊長な」と言われ二の句が告げなかった。
あの戦いの最中。
いつから?いつから彼女はいなくなっていたんだろうか?
合流した隊長の背にいつも居たはずの少女は居なかったし、隊長も途中から探そうとしなくなった。
生意気な渾名をつけては自分を怒らせ、それを見て笑っていた桃色髪の少女。

「何処に行っちまったんだろうなぁ…」

死んだ、なんてことはないんだろう。
何故かは分からないがそれは確信していた。
消えてしまった今もなお気配を感じる。
弓親に聞いても同じことを言っていた。

『一角も?実は僕も感じてたんだ。…ほんと、隠れんぼは昔から上手なんだから』

そう言って笑った弓親に、確かになと返したことを覚えている。
少女は確かに隊長の傍らに『居る』のだ。

「…隊長の側にいるんならいつも通りか」

徳利に残った最後の一滴まで飲み干すと、一角は立ち上がった。
辺りはすっかり夕陽の色に染まっている。
ググッと背伸びをしてカランカランと下駄の音を立てて仕事終わりで疲れているであろう弓親のところへ向かう。
途中で阿散井に会ったので飲みに誘うと快諾したので一緒に歩く。
執務室に着くとやはり疲れた様子の弓親を飲みに誘った。

「…いいね。僕も飲みたいと思ってたところだったんだ」

今宵の肴は思い出話でどうだろう、そう言った弓親の言葉に「ああ、いいぜ」と口角が上がった。



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