おまけの話。
井上織姫には、放課後必ず訪れるケーキ屋兼喫茶店で新作スイーツを頂く日課があった。
普段は友人と訪れてその日あった出来事などを女子高生らしくお喋りするのだが、その日の井上は1人だった。
それは別段珍しいことでもない。
外の景色を眺めたいだけだったり、店内に漂うゆったりとした空気を感じたい時、井上は1人で訪れるのだ。
「黒崎くん…進路どうするのかな」
ポツリと漏れた独り言は誰にも聞こえることは無い。
井上の言う『黒崎くん』とは、黒崎一護のことであった。
卒業を間近に控えた井上の同級生たちの多くは既に進路が決定している。
(私はどうしたいんだろう)
井上の高校生活は色んなことが起こりすぎた。
そしてその中心にはいつも『黒崎くん』がいた。
様々なことからいつも皆を護ってくれた『黒崎くん』を、井上は陰ながらでも支えたいし守りたいと考えていた。
「黒崎くん……」
これからも『黒崎くん』は皆を護るため戦いの中に身を投じるのだろう。
その中で辛い思いもするのだろう。
それを考えると井上の胸は張り裂けそうになるのだ。
(黒崎くんが辛いと、私も辛い)
はぁ…と小さく重いため息が漏れる。
新作スイーツをフォークで切って口に運ぶが、味気ない。
「どうしたらいいんだろう…」
うー…と悩む井上は、ふと見知った霊圧が現世にあることに気づいた。
(え?でも霊圧が小さすぎる…それに居るはずないよね。気の所為かな)
しかしその霊圧は井上の気になっている『黒崎くん』の霊圧ととても近いところにあったので、井上は本人だと確信した。
(も、もしかして……黒崎くん、ピンチなのではっ!?)
「あわわわ、ど、どうしよ…とりあえず行かなきゃ!」
井上は慌てながらスイーツを口に放り込み、店主に「ふぉひふぉうふぁまひぇひは(ごちそうさまでした)!」と頑張って告げて店を飛び出した。
(そういえばあの人が来てるならあの子もいるはずなんだけど…全然感じないな。どうしたんだろ)
少しの疑問はあったが、そんなことを気にしていては仕方がないと井上は無心で目的地へ走った。
井上の大好きな橙色が見えるまで、あと数秒。
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