小学生の頃によその街から転入してきた秀吉は、最初の頃は無口で、ムスッとしてて、なんだか話しかけづらい感じだった。
転入生でなにも分からないだろうからって隣の席だったオレがお世話係になったんだけど、あまりになにも言わないからだんだんイライラして。
昼休みになってもなにも言わないから我慢できなくなって、秀吉を置いて校庭で他の友だちと遊んでた。
気づいたら周りがオレンジ色になってて。

「そろそろ帰るかー」

誰かが言ったのを皮切りに、みんなそれぞれ家路についた。

ネットに入れたサッカーボールを蹴りながら家まで歩いてると、少し前を秀吉が歩いてた。
背中を丸めて寂しそうに1人で歩いてるのを見て、昼間のことが頭をよぎり少しだけ後ろめたい気持ちになった。

「秀吉!」

声をかけると、ピクッと肩が揺れた。
走りよって肩を叩き、「一緒にかえろーぜ!」と笑いかけると、秀吉は夕日で赤く染まった顔を向けて、小さく「うん」と頷いてはにかんだ笑みをみせた。


あの日からずっとオレ達は一緒にいた。
どこで喧嘩をするときも、誰が相手でもずっと一緒に背中合わせで戦ってきた。
オレの相棒で、スゲー大事なやつ。
でもいつの頃からか、それだけじゃ物足りなくなってきてしまった。
あいつの一番になりたい。
友達より、特別な存在になりたい。
そう思うようになってた。
でもオレは馬鹿だから、それがどういう感情なのかとかその時はまだ分からなかった。

初めて一緒に帰った日のことを思い出しながら、オレはあの日と同じオレンジに染まった帰り道を歩いていた。

「なーんか色々あったよなー」

伸びをしながら空を見上げると、夕焼け空と夜の空がちょうど混じりあってて。

(オレと秀吉みたいだ)

そう思って1人で笑ってた。

「なに1人でニヤニヤしてんだ、気持ちワリーな」

不意に後ろから声がかかり、慌てて振り向いた先にはラフな格好の秀吉が立っていて。

「なんかいいことでもあったのか?」

すぐに隣へやってきた秀吉に、オレは「昔のこと思いだしてたんだー」と笑いかけた。

「昔のこと?」
「オレらが初めて一緒に帰った日のこと。あの頃のお前可愛かったのになー」
「…今は可愛くねーの?」
「うーん…今は可愛いってより美人だな!」

そう言って秀吉を見ると、なんでだか俯いていた。

「秀吉?」

ほっぺたを両手で押さえて顔を上げさせると、顔が真っ赤で少しだけ目も潤んでた。
その顔に可愛かった頃の面影が色濃く見えてしまって。

(あ、かわいい)

そう思った時には、秀吉にキスしてた。
唇が触れるだけの、幼稚なキス。
触れた時間は短かったが、それでも唇の感触は十分に伝わってきて、ドキドキしてる。
潤んだ瞳と目が合って、その時初めてこの感情が恋なんだと気づいて。
今なら言える気がした。

「秀吉。オレさ、ずっとお前のこと…」

おしまい。



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