少しくらい触ってくれてもいいんじゃないの?


「あなたの事が好き、です。付き合ってください!」

あなたが普段煙草を吸ってる体育館裏。
たまたま1人でいる時、チャンスだと思ったの。
クラスが同じでたまに会話する程度の仲。
あなたが私の名前を知ってるかどうかすらも怪しいけど。

「…俺と付き合ってもいいことねーぞ」

ボソリと呟いて煙を吐き出した目の前の男。

「それでもいい。私があなたのそばにいたいの」

私が告白した相手は、この街で1番有名な男。
ヤンキーなんかとなんら関わりのない私でも知ってる萬侍帝國という名前。
その中でも武闘派と言われる九頭神會。
その3代目頭・蛭子幸一その人だった。


私の強い押しもあって、渋々ながらOKがもらえた。

「蛭子幸一だから、こうちゃんって呼んでもいい?」
「なんでだ。他の連中と同じでいいだろ」
「そんなの面白くないじゃない」
「…周りに誰かいる時はそんな呼び方するなよ」
「うん!」

こうして、私と彼は晴れて付き合うことができたのだが。


「なんで手も繋いでくれないの…」

カフェのテーブルに突っ伏す私を励ましてくれたのは、私の恋を一番応援してくれた友人だった。

「恥ずかしがってるんじゃないかなぁ?彼って恋愛ごととか疎そうだし」
「そうなのかな…そうだといいんだけど」

まだ好きになってくれてないのかな…と呟くと、「付き合ってるんだから好きなんじゃないの?」と聞かれた。

「私が押しに押して渋々OKしてくれたの…彼、私のこと好きじゃないんだと思うな…」

はぁ…ため息混じりにそう答えると、「まぁ気長にいこ?そのうちきっと繋がせてくれるよ」と励ましてくれた。


だけど、1ヶ月経っても2ヶ月経っても。
彼は手を繋ぐことはおろか触ることすらしてこなかった。
放課後待ち合わせて、一緒に帰るだけ。
たまにファミレスに寄ったりもしたけど、楽しいのは私だけみたいだ。
彼はいつも無表情で、何を考えてるのか表情から読み取る事は難しかった。
ある日、いつもの放課後。
いつものように校門で待ってると、携帯が震えた。

「?…なんだろ、メール?」

確認すると彼からの呼び出しだった。

『体育館裏に来い』

それだけの短い文。
だけど初めて彼からくれたメールが嬉しくて、消えないように保護をしてから言われた場所へ向かった。

「こっちだ」

体育館裏に着くと、手招きをする彼が見えた。
嬉々として近づくと「急に呼び出して悪かったな」と謝られた。

「ん、平気!それよりどうしたの?なにかあった?」

嬉しさ全開で尋ねると、彼は申し訳なさそうに「こっちに座ってくれ」と隣に座るよう促した。

「え、あ、うん。…よいしょ、はい!座ったよ」
「…ちょっと膝借りる。すげー眠いんだ…」
「え…えっ!?」

驚く私をよそにさっさと膝へ頭を乗せた彼は、「女の足ってやわらけーんだな…」なんて言いながらすぐに寝息をたてはじめた。

「う、嘘でしょ………すごく嬉しいんだけど!」

やっと彼が甘えてくれたと思ったら膝枕を要求されて。
こんなことされて喜ばない女はいない。
スヤスヤと寝息をたてる彼はなんだか幼くて、正直かわいいと思う。

「疲れてたのかな…」

綺麗に固められた髪を崩さないように優しく撫でると、「ん…」と声をもらして寝返りをうった。
お腹の辺りに顔が向いてて、正直恥ずかしい。

「ふふ…可愛いなぁ」

呟きながら頭を撫でていると、不意に彼の腕が腰にまわされた。

「ひゃっ!」

驚いて思わず声が出てしまい慌てて彼を見るが、起きた様子はなくてホッと息をつく。
腰に抱きつかれて、ますます密着度が高くなってしまった。
彼の思わぬ行動に鼓動が早くなる。
起こそうにも、気持ちよさそうに眠る彼を起こすなんてそんな罪深いことが出来るわけもなく。
結局彼が目を覚ますまで、そのままだった。

目を覚まして私に抱きついてることが分かった彼は「わ、悪い!」と言いながら慌てて離れてしまった。

「どうして謝るの?あなたが甘えてくれたこと、私すごく嬉しかったのに」

私が残念がると、気まずそうに「…女は柔らかすぎて、俺が触ると傷つけそうで怖い」とボソボソ呟いて。
そんな彼の優しさと不器用さに、もう胸がきゅんきゅんしっぱなしだ。

「もう!こうちゃん可愛い!」

思い余って彼に抱きつくと、「どこが可愛いんだよ…」と照れくさそうに顔をそむけた。

「大丈夫だよ、こうちゃん。あなたが思ってるほど、女って弱くないから!」

だからもっと触って?と上目遣いで告げると、「…努力、する」と呟いた彼が恐る恐る頬に触れた。
ゴツゴツした手が優しく頬を撫でて、その体温と心地よさに酔いしれていると、親指が唇に当たった途端ピタリと止まって、そのまま手が離れてしまった。

「…?どしたの?」
「っ、…いや、なんでも…」

なんでもないといいながら明らかに顔が赤くなってる彼。

「キス…してくれないの?」

思い切ってそう尋ねると、顔が真っ赤なまま目をまんまるく見開いた彼の顔があった。

「……いいのか」

数秒の沈黙のあと小さく呟いた彼に、「いい、よ」と返してゆっくり目を閉じた。
再び彼の手が頬に触れる。
目を閉じたことでより感触が伝わって、さっきよりドキドキした。
彼の吐息があたり、その熱さが伝わってさらに鼓動が早くなった。

そして、唇に柔らかい感触。

数秒とたたず離れていったのでゆっくり目を開けると、顔を真っ赤にしながらこちらを見つめる彼がいて。

「…これで、いいか」

ボソボソ尋ねた彼は、普段の彼とは違ってすごく情けない顔で。
そのギャップにきゅんとしてしまって、「もう!こうちゃん大好き!」と思いっきり抱きついて、今度は私からキスをした。

「こうちゃん可愛い!」
「何言ってんだお前…」
「だってホントだよ。寝顔とか可愛かったし」
「…お前の方が可愛いだろ」
「っ!〜〜〜っ!そういうの反則だから!」
「?」

おしまい!



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