目が覚めた時、外はまだ日が昇ってなくて。
春になったばかりの季節、朝はまだ肌寒い。
寒さで身震いしながら近くにあったシャツをはおった。

(あ、…これ武文くんのだ…おっきいなぁ)

袖がだいぶ余ったYシャツ。
それは隣で豪快ないびきをかきながら寝ている彼のものだった。
寝顔をチラリと見て思わず微笑み、起こさないようにゆっくりとベッドから離れた。
フロントに電話をかけ、朝食をオーダーする。
しばらくしてノックの音が聞こえ、そのままの格好でドアを開けた。

「ありがとうございます」

ニコリと笑って2人分の朝食を受け取ると、何故か顔を赤くしたホテルマンがゆっくりとドアを閉めた。
朝食と一緒に運ばれてきたホットミルクの入ったマグカップを両手で持ちながら、ふーふーと息をかける。
ほんのり甘いそれを1口飲むごとに、少しずつ身体が温まっていくのを感じた。

「ん…おいし」

ホッと息を吐いて、寝室の彼のもとへ向かった。

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昨日は中学の同級生の結婚披露宴だった。
クラスメイトの1人として招待された僕と、その子の友人として呼ばれた彼。
会場へは一緒に向かった。
席が離れていたので、披露宴中は話すことが出来なかったけど。
料理は美味しかったし、なによりウェディングドレスを着たお嫁さんがすごく綺麗で、感動してウルウルしてしまった。
披露宴後。
会場を出たあと、みんなに捕まってしまった。

「川原くんって今名字変わったんだっけ?」
「迫田と一緒に来てたよね!いつの間にそんな仲良くなったの?」
「相変わらずオドオドしてんなー川原!今は杉浦だっけか!」

矢継ぎ早にとんでくる質問と気軽に肩を叩いてくる名前も覚えてないクラスメイト。

「あ、あはは…えー、っと……はは」

笑いでごまかしながらみんなが他の話題に移った途端、輪の中から抜け出してホッとため息をついた。

「お疲れさん」
「うひゃぁっ!?」

ピトッと頬に冷たいものが当たって思わず変な声が出た。
頬を抑えて振り返ると、クスクスと笑う男が立っていた。

「杉浦、変な声出てたな」
「あ、…木村くん」

彼はよくいじめられていた僕を庇ってくれた男の子で、少しだけ憧れてた。

「はいこれ」
「あ…ありがとう」

差し出された缶コーヒーを素直に受け取って笑いかけた。
彼とは何故か昔から普通に話すことができた。
おそらく彼の雰囲気のおかげなんだろう。

「もう迫田からいじめられてないか?」

しばらく昔話に花を咲かせていると、彼が心配そうにこちらを見てきた。

「うん、大丈夫だよ」
そう言って笑うと「そうか、それならよかった」と彼も笑顔を見せた。

「歩巳!」

突然大声で名前を呼ばれて身体が跳ねた。
振り向くと武文くんがこちらに向かって歩いてきてて。
そのまま僕の手首を掴んで「帰るぞ」と引っ張られた。

「あ、う、うん…またね!木村くん!」

いつもより強引な武文くんにドキドキしながら小走りで歩調を合わせ、なおも心配そうな表情でこちらを見つめる木村くんに笑顔で手を振ってその場をあとにした。

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タクシーに乗っても手首は掴まれたままで、そこから彼の体温が伝わって顔が熱くなる。
でも彼はこちらを向く事はせず、ずっと窓の外を見つめていた。
ホテルに着いて、エレベーターに乗った。
そこで初めて彼がこちらを向いて、軽くキスを交わした。
その顔は少しだけムッとしてて。
キスをしたあと、彼は再びそっぽを向いてしまった。
エレベーターのドアが開き、そのまま部屋へと向かう。
未だに手首は掴まれたままだ。
部屋の鍵を開け、彼に連れ込まれる形で部屋に入る。
僕の背中越しに彼がドアの鍵をカチャリと閉める音がした。
そのまま扉に身体を押しつけられ、貪るようにキスをされた。
いきなりで思わず彼の肩を押すが、やはり片手ではびくともしない。

「んっ、んっ…ん、ふぅ…っ」

舌で歯列をなぞられ、そのまま絡まる。
肩を押す手にも力が入らなくて、いつの間にか快感に耐えるように彼のスーツにすがりついていた。

「んっ、…はぁ…はぁ…」

唇が離れていき、掴まれていた手首も解放された。
彼がネクタイを緩めるその仕草にドキリとして、彼を見上げる。
今日の彼はなんだかいつもと違う。
なんというか、こう…焦ってるみたいな。
でも何も言わないから、今度は僕から軽くキスをして。

「ん、…ねぇ武文くん…一緒にお風呂はいろ?」

首に手をまわし、おねだりしてみた。

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「んっ、…ぁ」

ベッドでお互いの服を脱がしながら舌を絡めてキスをする。
ベルトを外してズボンを下ろし、お互いパンツ1枚になったところで彼に横抱きされ浴室へ向かった。
お互い全裸になって、浴室へ入る。

「背中流してやるよ」

彼が声をかけてくれたので、その言葉に甘えて彼に背中を向けた。

「ひゃんっ!あ、た、たけふみくんっ?」

すると彼が急に抱きしめてきて、いきなりのことに変な声が出てしまった。
慌てて彼を呼ぶと、僕の背中に頭をこすりつけ「あー」とか「うー」だとか唸っている。

「…俺、すげーかっこ悪ぃ…」

ボソッと呟いた彼に、「どうして?」と尋ねた。

「だってよ…俺…やっぱ嫉妬しちまった」

木村のヤローに、と答えた彼。
嫉妬してくれたことに嬉しさを感じつつ、少しだけ引っかかる言葉があった。

「やっぱりって、どういうこと?」

尋ねると、肩におでこをくっつけて「…中学の頃から、あいつのことは気に入らなかった」とボソボソ小さい声で答えた。

「あいつ、お前ばっかかまってたろ…お前もお前で嬉しそうだったし…それがすげー気に入らなくて…なんつーか…あーダメだ!この話はおしまいだ!!」

チラリと彼を見ると、少しだけ耳が赤くなっていて。
中学の頃はたいした会話なんかしてなかったから、そんなふうに思ってたなんて初耳だった。
それが嬉しいのと、珍しく照れてる姿がなんだか可愛くてクスクス笑ってしまった。

「笑ってんじゃねーよ…ったく、ほれ。背中洗うぞ」
「ふふ、はーい」

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お互いの背中や頭を洗いっこして、一緒に湯船に浸かる。

「はぁ〜…きもちいいねぇたけふみくん」
「そーだなぁ…あ゛ー…きもちい…」
「ふふ、なんだかおじさんみたい」
「うるせー…」

背中を預けてリラックスした僕を、溺れないようにと後ろから腰に手を回して支えてくれる彼。
ゆっくりと、時間が流れていく。
時折彼が優しく頭を撫でてくれたりして、僕はふにゃふにゃと眠気に誘われた。

「寝るなよ、歩巳」
「ん〜…がんばる…」

目を擦りながら答えると、彼が後ろで笑った気がした。


「そろそろ上がるか」
「うひゃっ!?」

いきなり抱き上げられて思わず彼の首にしがみつく。
バスタオルを僕のお腹に乗せて、そのまま全裸で寝室へと歩いていく。

ベッド脇で彼に全身を拭かれながら視姦されて、顔から火が出そうだった。

「は、はずかしいよ…たけふみくん」

モジモジしながら目の前の彼を見やる。
彼は自身の身体を拭きながら「いつも見てるんだから今さらだろ」と言い放ちそのままバスタオルをその場へ投げ捨てて、僕をベッドへ押し倒した。

「ぁっ、…んんっ」

2人で沈みながら深くキスを交わす。
僕は背中に腕を回し、彼は腰に手を添えて。

シーツの中でひたすらお互いを求めあった。
そして、冒頭に至る。

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昨晩のことを思いだして顔を熱くさせながら、相変わらず豪快にいびきをかく彼を見つめた。
少しだけいたずらがしたくなって、マグカップをベッド脇の小さなテーブルの上にゆっくりと置いて。
いびきをかく彼の鼻を軽くつまんだ。
しばらくして、「んが」と間抜けな声を出していびきが止んだ彼を見て、声を出して笑いそうになってしまった。
そして再び寝顔を見つめる。
今度は小さい寝息がうっすらと聞こえていて。
それを確認してから、僕のつけた傷跡に唇を寄せた。

「ん、…ん」

傷跡に沿うようにチュッ、チュッとキスを落とす。

「たけふみくん…だいすき」

傷跡にキスをしたあと、ポツリと呟いて唇にキスをした。
するといきなり舌が絡んできて驚くも、寝起きとは思えない力の強さで腰を捕まれ逃げる事はかなわない。

「んっぅあ、ふ…ぅ…んは」

散々舌を絡ませたあと、名残惜しそうに離れていく唇。

「可愛いことしやがって…襲われてーのかテメーは」

聞こえた声にビクリとした。

「た、武文くんっ!起きてたの!?」

一気に耳まで熱くなる。

「飯のニオイがしたからなー」

あくび混じりにそう告げた彼。
そして僕の格好を見て、「…エロ」とボソッと呟いた。

「それ、俺のYシャツじゃねーか」
「あ、うん…これしかなくて。下もなにも履いてないんだけど、これならなんとか隠れるし」

ペロンとYシャツの下を捲ると、「やめなさい!」と怒られてしまった。

「…お前、まさかその格好で飯受け取ったのか?」
「え?あ、うん。だって裸で受け取るわけにはいかないでしょ?」

そう言うと頭を抱えた彼。

「危機感なさすぎだろ…」
ブツブツ呟く彼に首をかしげつつ、「とりあえずご飯食べよ?僕持ってくるね」と告げてベッドからおりた。

「歩巳」

唐突に声をかけられて、「なに?」と振り返ると、穏やかな表情を浮かべた彼がこちらを見ていて。

「俺も愛してるぞ」

とはっきり告げた。

「…、え。…あ、え、え?」

いきなりの告白に、頭がパニックになる。

「えと、あ、ぼ、僕も!僕も、だいすき!」

顔を熱くしながら慌てて必死に想いを伝えると、彼は「知ってる」と笑った。


おしまい




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