私の初恋は、小学校4年生の時だった。
父の仕事の都合で引っ越してきた街の小さな団地。
初恋の相手は私の向かいの部屋に住む男の子。

「オレ武文ってんだ!よろしくな歩巳!」

と笑顔で手を差し出した彼。
私は、その笑顔と快活さに憧れると同時に恋に落ちた。
その日から、彼は私をことあるごとに守ってくれた。
例えばいじめっ子から、例えば大きい犬から。
私が困ってたら必ず助けに来てくれた、いわばヒーローだった。
そんな彼が大好きで、彼の望むような女の子になりたいと思った。
彼が友人と話している時。

「黒くて長い髪が好きなんだよなぁ」

そんな声が聞こえたら、髪を伸ばしはじめて。

「メガネとかいいよなー」
なんて会話が聞こえると、「視力が下がってきたから」という理由をつけてメガネをかけた。
少しでも、ほんの少しでも彼に振り向いてほしくて。
でもそんな思いとは裏腹に、彼とはだんだんと会話をしなくなっていった。
中学生になると、彼は喧嘩に明け暮れるようになった。
いつもどこかしらに怪我をしていて、顔には絆創膏が絶えなかった。
その頃の彼は喧嘩の強さとその男らしさに女の子から人気があった。
あんまり会話をしなくなっても、私が困っていると助けてくれるのは変わらなくて。
疑問に思いつつもそれを嬉しく思っている私がいた。
それが他の女の子の気に障ったんだろう。

私はいつのまにか女の子たちからいじめられるようになっていた。
最初は物を隠されたりとかその程度。
でもそのうち、だんだんとエスカレートしていって。
そして。
中2に進級してしばらく経ったある日。

私は、あの事件を起こしてしまった。




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