いつから、俺はアイツを目で追うようになったんだろう。
その当時、俺には年下の彼女がいて。
その子が好きかどうかと聞かれると、正直よく分からなかった。
向こうが好きだと言ってきたから付き合った。
ただそれだけ。
俺にとってはアイツらといるほうが楽しいし、彼女のどうでもいい話に付き合うくらいなら、アイツらのバカに付き合うほうがずっと有意義だと思ってた。
言わずとも伝わったんだろう。
2年に上がる前、彼女から別れを告げられた。
いずれ言われるだろうと思っていたから、俺は一言「わかった」と告げた。
アイツが1年に負けて少し経った頃。
ヤスさんから、アイツの憧れの人が退学したと聞いた。
いつもの屋上、いつものソファー。
いつものようにそこを陣取って眠っている。
目はアイマスクで隠れていて見えないが、気持ちよさそうに眠っている。
「…むにゃむにゃ…」
どんな夢を見ているんだろう。
1年に負けて、あの人がいなくなって。
それでもこいつは笑っていた。
「仕方ねーよ。それが鈴蘭ってもんだ」
そう言ってなんでもないことのように。
起こさないよう、気配を殺して近づく。
ソファーの前に膝を折ると、目と鼻の先にアイツの顔。
「…ゼットン」
呼んでみると、「ん〜」と唸ってこちら側に顔を向けた。
そしてまた聞こえる寝息。
間近で寝顔を見ながら、そういえば前の彼女はどんな寝顔だったか、と思い出そうとして、もう顔すら思い出せなくなっていたことに気がついた。
「…薄情だな、俺は」
彼女といた時、果たして俺はここまで心臓がうるさくなったことがあっただろうか。
目の前の男を見かけるたびに、心が躍って。
声をかけてくれるたびに、舞い上がるほど嬉しくて。
いつからなのか、何がきっかけでそんなふうになっていたのか、もう覚えていない。
気付けば俺は、この男に恋をしていた。
だが、想いを伝えたところでどうなる?
気持ち悪い、と蔑むかもしれない。
案外優しいから、想いを伝えたとしても今まで通りの関係を望むだろう。
それでも、2人でいる時。
目の前でコイツが無防備な寝顔を見せることはなくなるのだろう。
そんなのは辛すぎる。
そんな風になるくらいなら、いっそのこと。
俺は、この恋を殺すことにした。
俺の気持ちなど露知らず、目の前の男は相変わらず気持ちよさそうに眠っていて。
俺は目の前の男に顔を近づけ。
どうか気づかないでくれと願いながら。
「…ゼットン …好き、だ」
触れるだけの、キスをした。
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