金曜日の放課後。
僕は、武文くんと一緒にファミレスにいた。
きっかけは昨日のメール。

『件名:お誘い
 本文:明日の放課後、暇ならファミレスでご飯食べませんか』

僕は初めて自分から武文くんを誘ったのだ。
すると、すぐに返ってきた返事。

『件名:Re:お誘い
 本文:いいぞ どこのファミレスだ』

「やったぁ!」

ベッドの上で思わずガッツポーズをとってしまう。
ウキウキしながら鈴蘭と黒咲の間にあるファミレスをネットで探して。
地図のURLをメールに添付して送信。

『件名:ここはどうかな?
 本文:http://~~~.~~~~~.jp』

しばらくした後、返事がきた。

『件名:Re:ここはどうかな?
 本文:了解 明日な』

「〜〜っ!!」

言葉にならない愛しさが身体中を駆け巡って思わず枕をバンバン叩く。

「はぁ…」

散々叩いていた枕を今度はギューっと抱きしめ、「武文くん…」と愛しい人の名前を呟いて。
会いたい。会って、その逞しいあの腕で力いっぱい抱きしめてほしい。そして…
その先まで想像してしまってカッと身体が熱くなる。
身体の中心に熱が集まって思わず手を伸ばす。

「ぁ、っ///」

想像だけでこんなになっちゃうんだ。
実際に会ったら…。

「ううう…ね、寝なきゃ!」

浅ましい自分を恥じて、妄想を振り払うように頭を振り、勢いよく布団をかぶる。

そして今日。
目の前で美味しそうにご飯を食べる武文くん。
僕は1杯でお腹いっぱいなんだけど、武文くんは2杯目。
よく食べるなぁ。

「…ジロジロ見るなよ」

不機嫌そうな声がして

「あ、ごめんっ」

僕は慌てて視線を反らす。

「…ほら」
「?」

声のしたほうを向くと、武文くんがスプーンを突き出してこっちを見ている。

「えっ、と」
「食いたかったんだろ?ほら、あーんしろ」

あーんって…あーんって!武文くんが!
愛しさと恥ずかしさで顔を赤くしながらも、僕はゆっくり「あ…あー、ん」と口を開けた。

「美味いだろ?」

悪戯が成功した子どものように笑う武文くん。
味なんて正直分からない。
でも目の前の彼が嬉しそうに笑ってるから。

「ん、…美味しい」

と答えてしまう。

ファミレスを出た後、「どこか行くか?」と尋ねる彼の服の裾をキュッと掴んで、僕は「武文くん…」と上目がちになりながら彼を呼んだ。

「どうした?」

彼が見つめてくる。
そのまっすぐな瞳に何も言えなくなってしまった。

「あ、…う、…な、んでも、ない…今日は、帰るよ…」
「そうか?んー…じゃあまたな」
「う、ん」

バス停で彼を見送る。

「はぁ…」

今日から月曜日まで親がいないから泊まっていかないかって聞くだけじゃないか。いつも武文くんが言ってくれることを、僕が言うだけ…なのに。

「ほんと、僕…ダメなヤツだぁ…」

バス停で思わずしゃがみこむ。
その日の夜。
僕は武文くんの下宿先である梅星さん家にいた。




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