彼と再会したのは、高校生になって初めて訪れたとある冬の日だった。

中2の頃、僕は彼の顔を切りつけた。
小4の頃ここに越してきてから、彼が僕にしてきたことに対する思いが爆発した結果だった。

僕は、彼にいじめられていた。

彼は平均より身体が大きい。そのため遠くからでもけっこう目立つ。
あの日、バスに乗り込んだ僕を見つけた彼は、大声を出してバスを追いかけてきた。
それでもバスは止まらずにだんだんと彼は小さくなっていったんだけど。

正直止まらないでくれて助かったと思った。

顔に傷をつけたこと、根に持ってたら?
ずっと恨まれてたとしたら?
殴られるどころじゃすまないかもしれない。
以前のような、いや、それ以上の酷い仕打ちを受けるかもしれない。
この街に戻ってきてから、考えるのはそればかりだ。

だから、名前を呼ばれて思わず逃げ出した僕の背中に、「謝りたいんだ!」って声を投げかけた彼を、僕は心底不思議に思った。

彼は本当に申し訳なさそうにあの頃のことを謝ってきた。
彼にとっては守っているつもりだった、とその時初めて知った。

「許してくれなんて言わねー。ただ俺はお前に謝りたかったんだ」
スマン、と頭を下げる彼。
「僕も、カッターなんかで切りつけたりして、ごめん。傷を残しちゃって、ごめ…」
最後のほうは涙で言葉にならなかった。

この時から、僕の中の彼に対する印象が変わりはじめてたんだと思う。

彼と一緒にいた人に、同じ下宿先の寅ちゃんを紹介してもらって、僕はこの街で初めて友だちと呼べる人ができた。

彼のことを、もっと知りたいと思った。
だけど、彼とまともに話ができたのはこれが最後だった。
僕が下宿先にお邪魔したら彼はすぐに部屋に戻るし、鉢合わせしてもろくに会話をしない。

彼に避けられてる、そう気づくのにたいして時間はかからなかった。



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