抱いてくれ、と言った昨晩の自分が馬鹿みたいだと今では思う。

なんであんなこと言ったんだろう。

そんな度胸もないくせに。

案の定迫田は驚いていた。

普通は引くし気色悪いと拒絶する。

でも迫田はそうせず、拒絶もしないで受け入れてくれた。

『抱くのは無理だが一緒に寝るだけならいい』

そう言って本当に一緒に寝てくれた。

嫌な夢を見て震えていたら寒いと勘違いして抱き締めてくれた。

子どもをあやすようなその仕草があったかくて、気づいたら朝になっていた。

目を覚ますと迫田の顔があって、何故か心臓が早鐘を打った。

口の左端に大きくついた特徴的な傷。

起きてる時は鋭くて好戦的な目つきも、閉じてしまえば可愛いものだ。

薄く開いた唇に指を這わす。

少しカサついているけれど柔らかいそれ。

今自分はどんな顔をしているんだろう。

起きませんように、それだけを願って、願って…。


唇を重ねた。


今どき小学生でもしないような重ねるだけのキス。


すぐに離れて、胸板に顔を埋めた。

恥ずかしさと罪悪感とよく分からない感情がないまぜになって、とても泣きたくなった。

ようやく落ち着いた頃、目の前で寝こける男を起こした。

なるべく普段通りに、いつも通りに振舞って。

怪訝そうな目を向けられたけど、笑顔で誤魔化した。

また頼んでいいか、そう尋ねたら、鍵はいつでも開いてるからと笑っていた。


ああ、本当のことが言えたならどんなにいいだろう。



絶対本人には言えない、言わない秘密。




俺、お前のこと好きなんだよ。




おしまい。



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