湯船に肩まで浸かりながら、歩巳は小さく息を吐いた

(誰かの家に泊まるなんて…生まれて初めてだ)

顔にかかる髪を後ろに撫でつけながら、歩巳はふと並べられているシャンプーに目を向けた

「みんなこだわりがあるんだなぁ…ふふ、名前まで書いてある」

様々な種類のボトルにそれぞれの名前が油性ペンで書いてあるのを見て、歩巳は微笑ましく思った
事前に教えてもらった部屋のドアをノックすると、中から『どーぞー』と呑気な声が聞こえた
ドキドキしながらゆっくりと扉を開けると、部屋の真ん中にいた迫田が煙草を燻らせながら歩巳に向かって手招きしていた

「こっち来いよセンセー」
「う、うん」

ポンポンと隣に座るように促され、歩巳は言われたとおりにそこへ座った

「あ」

すると迫田が歩巳の頭へ顔を近づけた

「え、な、なに?」

髪に吐息が当たる感触にドキドキしながら、歩巳はチラリと迫田を見上げた

「…俺のシャンプー使ったのか?」
「あ…だめ、だった?」
「いや、ダメじゃねーけど…なんつーか…」

ポリポリと頬をかく迫田は、ほんのりと顔を赤く染めていた

「…俺と同じはずなのに、なんかすげーいい匂い…」

そう言って首元に顔を埋めた迫田の背中に、歩巳はゆっくりと腕をまわした

「んっ…武文くん…く、くすぐったいよ…」

吐息が当たるたびビクリと素直な反応を示す身体を誤魔化すように、歩巳は小さく声をかけた

「せんせ…」
「ん…?」

「…………あゆ、み」

「っ!?ぁ、…んっふ、ぅ///」

耳元でいつものように呼ばれたと思った歩巳は、唐突に名前を呼ばれ勢いよく顔を上げた
そこを狙っていたかのように、迫田は歩巳の唇を塞いだ

「んっ、は…ぁ、ぅんっ…」

決して舌を絡ませることはないが、それでも角度を変えて何度も何度も唇を交わらせた
ゆっくりと離れていった唇に、歩巳は情欲に濡れた瞳を向けた

「ぁ…、たけふみ、くん…」
「そんな目でみるなよ」

言っとくが約束は破らねーぞ、と苦笑混じりに言われて初めて歩巳は正気に戻った

「あ、ご、ごめん…僕」

はしたない姿を見られてしまい、羞恥で歩巳の顔は真っ赤に染まった

「センセー、かわいい」
「っ、あ…ぅ…名前、呼んでくれないの…?」

頬に軽いキスをする迫田にそう問うと、「特別な時だけ呼ぶってさっき決めた」との返事が返ってきた
特別な時とはなんだろう、とは思いつつ、またいつか迫田のあの低い声で名を呼ばれることを楽しみにする歩巳なのだった

「ほら、もう寝ようぜ」
「い、一緒に寝るの?」
「あたりめーだろ。今日は冷えるから床に寝てたら風邪ひいちまう」
「…ありがと」
「おやすみ、せんせ」
「ん…おやすみ…たけふみ、くん…」

(…寝れるわけねーだろ)

すやすやとすぐに寝息をたてはじめた歩巳の頭を撫で、はぁ…とため息をついた

「早く…卒業してーなぁ」

頬を優しく撫でると、歩巳はふにゃりと柔らかく微笑んで、小さく「たけふみくん…」と呟いた

「くそ…卒業したら覚えてろよ…歩巳…」

いちいち本能を刺激する歩巳に負けないようにと理性を総動員させる迫田は、幸せそうに眠る歩巳の額に優しくくちづけたあと、ゆっくり目を閉じた

……To be continued



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