それから2人は毎日と言っていいほど連絡をとりあった
園の行事が近くなると会えない日がほとんどなので、そういう時はどちらかというと歩巳のほうから連絡していた
気付けば最後に会ったのはひと月前、なんてザラにあった

「…はぁ」

歩巳の口から自然とため息がでる
会えば必ず抱きしめられ、唇にキスをされ…他にも色んな箇所にキスを落とされる
子どもが大人にするようなキスの時もあれば、情欲を隠しきれないと言いたげな時もあったり、迫田からのキスは言葉以上に色んなことを歩巳に伝えた

(そういえば、まだ僕からはキスしてない…)
「…会いたい、なぁ……会えたら、今度は僕から…」

無意識に唇をなぞり、その瞬間を想像しては頬を染め、会えないということに落ち込み、またため息をついた

迫田はよく保育園の入り口で待つことが多かった
最初の頃、親御さんからはよく「い、入り口に不審者が…ヤクザみたいな人が!」なんて言われたりもした。

「彼はここを卒園した子なんですよ。たまにああやってみんなが安全に親と帰れるように見守ってくれてるんです」

そう説明すると、「そうなんですか…」と納得する人が大半だった
身体の大きい迫田は、子どもの遊び相手になることも多かった
保育園にいた頃からガキ大将のようなことをしていたのもあって、面倒見はよかった
自分より小さくて弱い相手には最大限の優しさを見せる迫田を、子どもたちはすぐ大好きになった
中には、「おにいちゃんのおよめさんになりたい!」と言い出す子まで出てきてしまい、たまたまその場面を見てしまった歩巳は(こ、子どもの言うことだし…)とは思いながら痛む胸を誤魔化すことができなかった

「気持ちは嬉しいけど、俺はもう大事な人がいるんだ。だから、ゴメンな」

そう答えた迫田は、精一杯の気持ちを伝えた女の子の頭を、大きい手で優しく撫でた

そんな姿を見なくなって何日経っただろう

「はぁ……」

最後に会った日のことを思い出してはため息が出る
最後に会ったのは確かハロウィンの前で、今はもうクリスマスが近くなっていた
運動会もおゆうぎ会も終わり、あとはクリスマス会を残すのみとなったが、まだ会える目処は経っていない
そして今日、歩巳は午前中で仕事を終えて帰り支度をしていた
帰宅しても仕事は山積みだ
家に溜まっている書類やら何やらを思い出し、あれを片付けない限りは迫田に会うことなどできそうもないと考えると、やっぱり歩巳の口からはため息しか出なかった

(そういえば……武文くんはすごくいっぱい愛情を注いでくれてる…でも、僕は?僕…なにもしてあげられてない…好きってことも、伝えてない…)

はぁ…とため息が止まらない歩巳は、トボトボと入り口に向かっていた

「……好きだって伝えなきゃ…」
「誰に?」
「それはもちろん………え?」

慌てて声のした方に顔を向けると、そこには今の今まで想っていた男が立っていた

「行こうぜ」
「え…っうわ!」

歩巳はおもむろに腕を掴まれ、駐車場まで連れて行かれた

「早く鍵開けろ」
「え、あ、うん」

鍵を開けて運転席に乗り込もうとする歩巳の腕をそのまま引っ張り後部座席へ押し倒した

「あ、…あの」

ギュッと抱きしめられた歩巳は、迫田の不安を強く感じとり、ゆっくりと背中に腕をまわした

「会いたかった…」
「うん…僕も」

しばらく見つめあっていたが、やがてどちらからともなく近づいて、何度も何度も角度を変えて触れ合うだけのキスを交わした

「んっ、ぁ…は」

優しくて甘い、しかしもどかしくて切なくなるようなキス
ゆっくりと唇が離れる
少し酸欠ぎみになった歩巳は涙を滲ませた目で迫田を見上げた
すると不安そうにこちらを見つめる迫田と目が合い、歩巳は思わず笑ってしまった

「…笑うな」

ムスッとしたその顔はほんのり赤くて、歩巳は微笑みながらその頬に手を添えた

「武文くん」
「なんだよ」

ぶっきらぼうに返ってきた返事が照れ隠しだということはよく分かっている
歩巳はそんな迫田の首に腕を回し、その耳元に顔を近づけた

「だいすき」

一言だけだが、迫田には絶大な効果だった
歩巳はそのまま強く抱きしめられ、迫田の表情は伺えない
だが確かにその耳が真っ赤になっているのを見た

「俺…卒業まで耐えられるか不安だ……」

聞こえてきた言葉に、歩巳は小さく「……………ぼくも」と呟いたのだった


……To be continued



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