「んぅ、んんっ…ふ、ぁん」

ドアに押しつけた僕の手を握りしめ、舌を絡めたえっちなキスをしながら、武文くんが僕の服の中に空いてる手を差し込んできた。

「んんっ!ん、ふ…んぅっ」

脇腹をゴツゴツした手にゆっくりなぞられてビクビクしてしまう。
さっきまでの緊張した武文くんはどこに行ったんだろ…
そんなことを考えてると、ゆっくり唇が離れていった。

「ん、ぁ…はぁ…はぁ…」

照明もつけてない、真っ暗な室内。
武文くんの顔は、よく見えない。

「…あゆ、み…」

耳元で熱い息がかかる。

「た、たけふみ…くん…」

武文くんの首に腕をまわす。
すると、ギュウッと強く抱きしめられて、「ひゃっ!」と声をあげてしまった。

「悪い…我慢できなかった…」

そう言って身体を離す武文くん。

「あ、…う、ううん…」


「「………」」


気まずい沈黙が流れる。

「っ…の、飲み物、入れるね!」

慌てて武文くんに背を向け、照明のスイッチを入れて振り返ると、武文くんはとっくに背を向けてたんだけど、それでも耳が赤いのが見えた。
僕はなんだか嬉しくなって、急いで靴を脱いでその背中に飛びついた。

「うおっ!な、んだ」

こっちを向いた武文くんの顔はやっぱり赤かった。

「ん、…なんだか嬉しくて」

背中に耳をぴったりつけると、武文くんの心音が速いのが分かる。

「…なにが」

ぶっきらぼうな返事。
それが照れ隠しだってわかってる。

「武文くんが、僕の家に来てくれたことが、すごく嬉しい…」

素直にそう伝えると、「…っ、そーかよ」とやっぱりぶっきらぼうな声。

「まっすぐいったらリビングなんだ。ソファーがあるから、そこで待ってて。飲み物持ってくる!」

テレビもつけてていいよと告げると、チラッとこっちを見て、「おう…」と少し緊張しながらも返事が返ってきた。

「お待たせ!」

僕が飲み物を持ってリビングに入ると、少し緊張が解れたらしい武文くんが「おー」と声をかけてくれた。

「はい、ビール」

これしかないけど、と母さんが残してた500ml缶を開けて、あらかじめ冷やしておいたグラスにビールを注ぐ。

「お、悪いな…へへ」

グラスを受け取った武文くんは嬉しそうに飲んだ。
武文くんがビールを飲むたびに上下する喉仏がすごく色っぽくて。
ドキドキしながら一緒に持ってきたコーラを開けた。
そこからはテレビを見ながら他愛もない話をした。
僕の学校のこととか、鈴蘭は今こういう状態だ、とか。
気がつけばけっこう遅い時間になってた。
会話に夢中になってたら、深夜なのにホラー特番がやってた。
僕はそういうのすごく苦手なんだけど…武文くんが見たかったらしくて。

『おわかりいただけただろうか…それではもう一度…』

テレビのナレーションがさらに恐怖を煽る。

「ひぃっ!」

情けない声をあげて、僕は武文くんの懐に飛び込んだ。

「お、おい…そんなに怖くねーだろ」

慌てる武文くん。でも僕はそれどころじゃない。

「こ、怖いよ!僕こういうのほんと…ダメなんだよ…」

少し泣きそうになりながら武文くんの服をギュッと握る。

すると「大丈夫だ、俺がついてる…な?」と優しく笑って背中を摩ってくれた。

「武文くん…」

そんな彼がかっこよくて、僕は自然と顔を近づけて彼の唇にキスをしてた。

「ん、…」

触れるだけのキス。それでも武文くんのスイッチを入れるには十分だったみたいで。
あんなに見たいっていってたテレビの電源を切り、ソファーにゆっくり僕を押し倒した武文くん。
お互い緊張してるのが分かる。

僕は武文くんの首に腕を絡め「…たけふみ、くん…、がまん、しないで?」と小さく囁いた。




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