時刻は夜の8時。
まだバスはある。
武文くんはきっとご飯を食べ終わって、部屋でダラダラしてるはず…。
僕はその辺に落ちてる小石を拾って、武文くんの部屋の窓めがけて投げた。
コツン、コツン。
反応はない。
コツン、コツン。
部屋に人影が見えた。
コツン、コツン。
「あっ!」
ちょっと大きな石を投げてしまって声を出してしまった、その瞬間。
「さっきからコンコンうっせーんだよ!、いだっ!」
ガラッと勢いよく窓が開いて、顔を覗かせたのは部屋の主である愛しい人。
僕の投げた石が額にぶつかってしまった。
「あ、ごっ、ごめんっ!」
慌てて謝ると、額を手で擦りつつ「あ?」と訝しげな視線を送ってきた。
「歩巳?なにやってんだそんなとこで」
僕に気づいた武文くん。
「入ったらどうだ」
と声をかけてくれたけど、僕は首を横に振った。
「あ、あのっ…少し、話があるんだ、けど」
降りてこれない?と聞くと、少し考えてる武文くん。
「…ちょっと待ってろ。準備するから」
そう言って武文くんは窓を閉めた。
待つこと10分。
玄関で話し声が聞こえてきた。
『あんたこんな時間にどこ行くのよ』
『あー、ちょっとな』
マリ姉さんと武文くんだ。
『遅くなるなら連絡しなさいよ』
『おー』
そろそろ出てくるかな…。
『ちゃんとゴムはつけなさいよー』
『なっ…!?っせーよ!!」
と武文くんが怒鳴りながらドアを開けた。
会話を聞いてた僕の顔は真っ赤になってるんだろうな。
だって熱いんだもの。
「…あー、聞いてたか」
僕の表情を見た武文くんが気まずそうに尋ねてきた。
「き、聞いてた…というか、聞こえてきた…というか…」
赤くなった顔を俯かせる。
「…こんなとこで突っ立っててもなんだから、大通りに出ようぜ」
と歩き出した。
「あ…うんっ」
僕が慌てて追いかけると、武文くんはこっちを振り向いて、照れたように顔をそむけながら「…今なら、誰もいねーから」そう言って手を差し出した。
「え…?」
手を繋ごうって、ことなのかな。
差し出された大きな手に、僕の小さい手を伸ばして、キュッと握った。
ドキドキする。
だってこんな、恋人みたいなこと。
隣を見上げると、顔はよく見えないけど耳が赤くなってるのが見えた。
思わず笑みがこぼれた。
武文くんも、緊張とかするんだ。
僕だけじゃないんだね。
大通りに出て、バス停のベンチに座った。
目的のバスが来るまであと10分。
「話ってなんだ?」
武文くんが話を切り出してきた。
「あ、その…えっとね」
頑張れ、僕。言うんだ。
「今日から、母さんが、町内会の旅行で、3日くらい家を空けるんだ…だから、その…」
僕の家に、来ま、せんか。
たどたどしくだけど、ちゃんと言えた。
武文くんはじっと黙ってる。
きっとこっちを見てるんだろうけど、恥ずかしくて顔が見れない…。
「…いいのか?」
武文くんが問いかける。
「う、うん!いいよ!」
勢いよく返事を返すと、「わかった」と武文くんが笑った。
思わず僕も笑顔になる。
その後まもなくして来たバスに2人で乗って、しばらくすると僕が住んでるアパートが見えてきた。
ブザーを鳴らして、そこで降りる。
辺りは人っ子一人いなかった。
アパートの階段を上って、「ここが僕の家だよ」ってドアに鍵を差し込んで開けようとした瞬間。
「ま、待て」
武文くんが慌ててストップをかけた。
「どうかした?」
武文くんを見ると、顔が赤い。
「…なん、か…その…好きなヤツの部屋に入る、ってこんなに緊張するんだな…」
ポリポリと頬を掻く武文くん。
あんまり見ない緊張した面持ちの武文くんに、僕はきゅんきゅんしっぱなしだ。
「ふふ、武文くんかわいい」
僕がそういうと、武文くんはさらに顔を赤くして「可愛いわけねーだろ!」って僕の頭を軽くはたいた。
笑いながら玄関のドアを開けて、武文くんを中に入れる。
キョロキョロする武文くんに背を向けて、ドアをきちんと施錠して、「今飲み物を…」そう言いながら武文くんのほうを振り向いた途端。
ドアに身体を押しつけられて、熱くて激しいキスを、された。
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