社長室に誰もいない夜間、子猫は側近の家で飼うように指示した。
側近は「アイツの方が適任でしょ!」と秘書を指さしたが、秘書は「ウチの猫、猫見知りなので…すいません」と逆に謝られて何も言えなくなってしまっていた。

「っつーか!ギース様が持ち帰ってくださればいいんですよ!ほら!」
「世話をすると言ったのはお前だろう?」
「ぐっ…!だーもう!」

何も言い返せなくなった側近は悔しげに唇を噛み、「分かりましたよ!やりゃーいいんでしょ!」と捨て台詞を吐いて子猫を抱えたまま部屋を出て行った。
続いて秘書も「あ、これ持ってかなきゃダメですよー!」とペット用品一式を抱えて、側近を追いかけるように飛び出していった。




翌朝。
子猫と一緒に出勤した側近にいつもの元気はなく、逆に子猫はその元気を吸い取ったかのように社長室の中を走り回っていた。
「家の中でもこんな感じで……もう疲れましたよ……」とソファーに座って頭を抱える側近の姿を見て流石に気の毒に思う。

「こいつ連れて帰ったときリリィがすげー嬉しそうだったんで、まあそれはよかったんですけど」
「そうか」

あんな顔久々に見たなー、と今度は一転嬉しそうな顔を見せる側近の様子に、先程まで感じていた気の毒さは一瞬で消え失せた。
室内を縦横無尽に走り回っていた子猫だったが、今度は此方に興味を示したらしく身体全体で足に擦り寄ってきた。
長い尻尾を巧みに巻きつけては直ぐに離れ、かと思えば顔を擦り寄せ身体を擦り寄せ、手を伸ばすと今度はその手に頭を擦りつけてきた。

「随分と甘え上手なことだ」
「……猫被りやがって……」
「猫だからな」
「にゃぅ」

オレにはそんなに甘えてこなかったくせに!と喚く側近の声も耳に届かないのか、子猫は喉を鳴らしながらもっともっとと言わんばかりに頭を擦り寄せてきた。

「一体どこでそんな甘え方を覚えてきたんだ?…全く、イケない子だな……」
「みゃぁん」
「ここがイイのか」
「にゃぅ…」
「フフ…ほら、もっと可愛い声を聞かせてくれ」
「〜〜〜〜〜っ!!!」

2分後、何故か顔を赤くした側近が「朝っぱらからもうやめてくださいっ!」と(何か誤解されそうな言い回しで)訴えるまで、子猫とのやり取りは続いた。




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