その日の遠征はなんてことは無い、いつも通りただの虚討伐任務だった。
十一番隊が前線で虚を殲滅している間に四番隊は救護テントで負傷者の治療にあたる。
虚の数が予想していたよりも多く、運び込まれる隊士も徐々に増えてきたが、それもいつもの事。
なにもかもいつも通りだった。


四番隊副隊長である虎徹もこの任務に参加していた。
四席から七席の席官にそれぞれ指示を出し、席官たちはそれを受けて各自の部隊で救護にあたっていた。
任務開始から早数時間、ようやく運び込まれる隊士も減ってきた頃だった。


『美味ソウナ匂イがスルなァ』


「っ!!?」

地の底から響くような不気味な声が背後にまとわりついた。
冷や汗が一筋、頬を伝った。
ゆっくりと振り返ると、通常の虚よりも大きい巨大虚が目の前で不気味な笑みを張り付けていた。
(どうしてここに……いや、考えている暇はない!)
敵から目を逸らさないままでいると、目の端に山田の姿を捉えた。

「山田七席!」
「は、はいっ」
「怪我人を此処から安全な場所へ運んでください!急いで!!」
「はいぃ!!」

山田が視界から消え、背後で避難を呼びかける声が聞こえた。
(全員の避難が完了するまでなんとか時間を…!)
静かに刀へ手を伸ばし、ゆっくりと引き抜く。

「疾れ、『凍雲』!」

解号を告げた途端、刃が三つに分かれ僅かに氷気を帯びはじめる。

『ヒヒヒ、今宵ハ上物ニアリツけソウダ』

カチカチと大きな爪を鳴らし嘲笑う虚に唇を噛みつつも、目を逸らすことはしなかった。




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