再会した時、嬉しさと同時に落胆したのを覚えている。

彼が当時の十一番隊隊長を屠るその姿は隊員だけではなく他隊の隊長も見ていた。
斬られ、貫かれ、そこかしこから血飛沫を上げて倒れるその遺体から隊長羽織を剥ぎ取るその一連の流れが余りにも鮮やかで、その場にいた誰もが息を飲んだ。
返り血と自身の血で塗れた顔を拭うこともせず、彼はその場に立ち尽くしたままその鋭い双眸だけは此方を射抜いていた。

(行ってはいけない)

胸の傷を覆い隠すように結った髪を握り締め、今すぐにでも駆け出して刃を交えたい衝動を抑えつつ、出会った頃より格段に落ちていたその力に絶望した。
恐らくは刃を交えたあの時以降、良敵には巡りあえなかったのだろう。
ギリギリで戦う癖は無意識に力を抑えて抑えて抑えて抑えて…遂には自身でも分からなくなるほどの枷を何重にもかけてしまっているようだった。

(まだ、待たなくては)

今交じりあえば望みを果たせぬまま彼は斃れてしまう。
それだけはなんとしても避けたかった。

(貴方の枷が一つ一つ外れて)

あの頃の彼が戻って来るまで。
待つことはもう慣れてしまった。
今はまだあの頃の彼には遠いが、解き放たれるその姿をこの眼に焼き付けられると思えば安いものだ。

「……楽しみですこと」

思わず漏れた本音に、聞いていた元柳斎は眉を顰めた。

「あの童が、お主の求めていたモノか」
「えぇ……立派に育って…しかし悪い癖をつけてしまったようです」
「そのようじゃの」

此方を見ていた筈の彼は、既に視線を外していた。
いつの間にか肩には幼子が乗っている。
幼子の存在は余りに似つかわしくないが、不思議と違和感は無かった。

(本当に…楽しみです)

いつかその刃を再びこの胸に突き立ててくれるまで。
唯一つの願いは彼が枷を外して解き放たれるその時、其の刹那に遂げられるのだろう。
その時はきっとえも言われぬような幸福感に包まれるのだろう。
貫いた貴方は笑うだろうか、どうか笑っていてほしい。
これでまた強くなったと、いつものように笑ってほしい。

(ああ、でも)

泣いてくれたら、この命が散る間際逝くなと縋ってくれるなら。
子どものようだと私が笑ってあげましょう。


(これじゃあまるで、恋する乙女のよう)


(私の唯一人の貴方……ああいつか)



(必ず、私を────)




おしまい。



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