前総隊長である、故・山本元柳斎重國の墓は一番隊の隊首室に面する庭にあった。
墓といっても遺体はなく、代わりとして長年連れ添った斬魄刀が埋められていた。
現総隊長の京楽が隊長格全員を呼び、先の大戦で喪った仲間たちの鎮魂も兼ねて毎年盛大に飲み会をするようになったのはいつからだろうか。
普段から飲みの誘いは断らないが、この飲み会だけは毎年不参加だった。

平和の祈りを込めて山本の墓に皆で黙祷したあと、「じゃあ飲もう!」の合図で一気に飲み会へ切り替わる。
その『平和の祈り』というものが嫌いだった。
『剣八』にとって平和とはまさに死と同義だ。
生きがいである戦いがなくなることほど恐ろしいものはない。
故にこの鎮魂祭に参加したことはない。


しかし、毎年墓前には来ていた。


山本の墓に赴くのは決まって日付が変わろうとする時間帯だ。
その頃には祭も既に終わり、皆帰宅するか酔い潰れているからである。
毎年酒を一つと杯を二つ持って、静かに訪れた。
墓前に胡座をかき、酒の蓋を開け、二つの杯に透明の液体をなみなみと注ぐ。
一つは自分で飲むもの、もう一つは墓に。
乾杯、と一言呟いて杯を掲げたあとグイッと一気に流し込んだ。
山本が好んで飲んでいたという日本酒は、辛口でそれでいて喉あたりが心地よい。
一杯だけ飲んだ後、残りの酒を墓にかけた。
『無礼者!』と怒る姿が目に浮かび、クッと喉の奥で笑いを噛み殺した。

「叱れるもんなら叱ってみろ。クソジジイ」

そう告げて残りの一滴までかけたあと、墓前に置いていたもう一杯の杯を手に取った。

「アンタがいねぇと、自由すぎていけねェな」

もう一度小さく呟いて、杯を呷った。


おしまい。



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