理想は白馬に乗った王子様
そんな人現実にいるはずないから彼氏いない歴=年齢になってしまった

「……はぁ」

重いため息が休憩室の空間を包んだ

「ため息つくと幸せ逃げるで」
「………はぁ……」
「無視か」

後ろから聞こえてきた低い声
聞こえない振りをしてわざとらしくため息をつくと、後ろの声は呆れたような声色になった

「ほっといてください………はぁ」

テーブルに突っ伏して、またため息
向かいの椅子を動かす音が聞こえた

「なんや、悩みごとでもあるんか?」

なんだか心配そうな声色になっている
そんな変化にちょっと嬉しくなった自分がいた

「いや……くだらないことですよ」
「気になるやん。話してみ?」

優しい低い声
彼氏ができないのが悩みなんて言ったら、きっと鼻で笑われる
それだけは絶対に避けたいところだ

「いや、ほんと、言うほどでもないんで、大丈夫です」
「ほんまか?…まぁそこまで言いたないんやったら無理には聞かんけど…」

無理はしたらあかんで、と優しく頭を撫でたその手の大きさにドキリとした

(そうだ、この人も男だ)

そしてその時ようやく気づいた

(今、もしかして、2人きり…?)

顔に熱が集まる
心臓がドキドキしてるのが分かる
今顔を上げたら絶対にビックリされる

「ユキちゃん?ホンマに大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですから!あっち行ってください!」
「お、おう?わかった」

顔を伏せたまましっしっと手で追い払う仕草をすると、困惑したような声が聞こえたあとドアの閉まる音が聞こえた
顔を上げて周りに誰もいないことを確認して大きく息を吐いた

「……おっきい手だったな……あったかかった…」

撫でられた頭に手を置いて、温もりを確かめた

「はぁ…………」

先程とは違う少し艶のあるため息
化粧台の鏡に映った赤い顔は、誰が見ても恋する乙女そのものだった

「うぅぅ……真島さんのばか」

再びテーブルに突っ伏して呻いた

「これからどうしよ……」

顔を見るたびに赤くなる自分が容易に想像できてしまう

(ああもう!ばかばかばか!!)

理想とは全く違うけど、この日私は確かに恋に落ちる音を聞いた




おまけ


「陽田ちゃん…」
「うわ、どうしたんですか真島さん!めちゃくちゃ凹んでるじゃないですか!」
「俺ユキちゃんに嫌われたかもしれん…」
「え?そんなことあるわけ…」
「さっきな、悩んどるようやったから聞いてあげようと思ったんやけど、「大丈夫ですから!」って言われて追い出された」
「ユキちゃんのことだから大した悩みでもないですって。大方彼氏ほしいとか思ってるだけですよ」
「それならええけどなぁ…カラオケにでも誘ってみようかなぁ」
「それいいですね!」
「よし、じゃあ誘ってくるわ。ほな!」


(あの2人、なんで付き合ってないんだろ…)
「ユキちゃんと真島さんって、くっついてないのが不思議ですよねぇ」
「うわっ!?亜依ちゃんいつの間に!!」


おしまい



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