うちの支配人は女の子に優しいんですよ
どの子に対しても紳士的な対応をするから、誰が最初に支配人をオトせるか競争してるって噂もあるくらいで
でもね、私知ってるんですよ

「真島さ〜ん!」
「なんや?お酢なら買うてきたで」
「違います〜!次はみりん!」
「なんやと…」
「お願いしますね!」
「へーへー」

とある女の子に対してだけは扱いが違うってこと、知ってるんです

最初は妹のように扱ってるんだと思いました
どの女の子にも紳士的な支配人ですけど、その子のことは雑な扱いというか…本音で喋ってる感じがするというか…なんと表現していいのか分からないのですが
他の女の子には歯の浮くような言葉をよく仰る支配人ですが、その子にはあまりそういう言葉を言わないんです

実は1度尋ねたことがあるんですよ

「どうしてあの子には他の子と同じように言わないんですか?」

って
そうしたら少し黙ったあとポツリと一言、「………はずいやん」と告げて顔を背けてさっさと行ってしまいました
支配人のその仕草と言葉で、きっとあの子の存在は特別なんだと確信したんです

それに、女の子のほうもなんですよ
あの子、支配人が他の子と楽しそうに話しているとちょっと拗ねるんです
それがなんとも分かりやすくてちょっと笑ってしまいました
その時は「なに笑ってるんですか!もう!」って怒られちゃいましたけど
接客練習のときはお客様もいないので会話が聞こえてくるんですけど、支配人が甘い言葉を他の子にかけていると「………やっぱり、私じゃ釣り合わないのかな…」って傷ついた顔するんです
明らかに恋する乙女じゃないですか…察するなというほうが無理ですよ

早くくっついちゃえばいいのにって思ってるんですけど、お2人とも自分の気持ちに鈍感なのか全然そんな気配がなくて…板挟みにされる私の気持ちも分かってほしいです…
でも最近なんだか様子がおかしいんですよね
なんというか、女の子のほうがよそよそしくなったというか
目が合ったと思ったらすぐに逸らしたり…そういえば最近はお店の中で会話してるとこ見たことないな…
……………もしかして何かあった!?喧嘩したとか!!?
ハッ、そういえば今日最後まで残って閉店作業してるのってあの2人…ちょ、ちょっと心配なんで見てきます!
すいません!お話聞いてくれてありがとうございます!!
それじゃ!!


「……ふん、なかなか副業を楽しんでるみたいじゃないの、真島ちゃんよ」





「まさかユキちゃんと2人でとはなー。いつもは陽田ちゃんとやんねんけど、陽田ちゃん今日休みやし…まあなんとかなるやろ」
「はぁ……え?2人?」
「おう。ほんじゃフロアの掃除軽く頼むわ」
「は、はい」

(ま、真島さんと2人なんてそんな男と女がひとつ屋根の下だなんてなにか間違いがあったら陽田さん責任とってくれるのかなどうなんだろというよりなんで私こんなこと考えてうわわわわ)

「…ちゃん、ユキちゃん!聞こえとるかー!」
「ひゃぁっ!!ひゃ、ひゃい!?」
「…なんやその声。掃除終わったら上がってええで」
「へ、?……あ、はい……」

(………やっぱり私、女としての魅力がないのかなぁ。きっと亜依ちゃんとかひびきちゃん辺りだとこの後お茶でも、とか言うのかな…………やだなぁ)

「はぁ……」
「なんや、ため息ついて。好きな人でもできたんか?」

(どうせ「か、からかわないでくださいよ!!真島さんのばか!」とか言ってくるんやろなぁ)

「…………まぁ、そうですかね」
「えっ!!だ、だれや?どんなやつなんや?」
「…仕事ができて」
「ふんふん」
「…女性に優しくて」
「ふんふん」
「…いざとなったら王子様みたいに守ってくれて」
「…」
「…背が高くて」
「……」
「…怖い顔だけどかっこよくて」
「………」
「…髪が長くて」
「…………」
「…いつも眼帯つけてる、ヤクザみたいな人です」
「………はは、なんやそれ。まるで俺………………え」
「………………か、かえります」
「まてやユキちゃん!!それ、ほんまなんか」
「ほんとです!!わたし……真島さんのこと、が……………好k」
「お2人ともーー!!!喧嘩は…って、あれ?」

「「…………………」」

「えーーっと…もしかして、私邪魔でした?」

「…もう私かえりますねお疲れ様でした!!!」
「おうお疲れユキちゃんまた明日な!!!!」


「えっと…なんかすいません真島さん」
「…陽田ちゃん、今月給料なしな」
「ええっ!?」


おしまい☆



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