これも隣になった縁だ
ちょっとオレの話を聞いてくれよお兄さん
最近よく行ってるキャバクラがあるんだ
こじんまりとしてるけどなかなかいいお店でさ、なんというか…親近感が湧くんだよ
おっきい店じゃ味わえない独特の雰囲気があるんだ
それで…オレ、何度か通ってるうちにそこのファンになったんだけど、さ
…好きになっちゃったんだ。そこで働く女の子のことが
……いや、オレだって分かってるよ
そういうさ、水商売してる女の子に本気になるだけ無駄だってことくらい分かってる…分かってるんだけど…
仕事で失敗してスゲー落ち込んだとき、あの店に行ってあの子の笑顔見ると元気出るんだ
その子にとってはそういう仕事なんだから当たり前だって?知ってるよそんなこと!
あの笑顔…あの声…仕草…向こうは仕事なんだって頭では分かってても、どうしても恋してしまうもんなんだよ…

……実はな、飛び降り自殺まで考えてたんだ
失敗した仕事が結構でかい案件でさ、社長直々にクビだ!って言われちまったんだ
死ぬ前に最期の思い出作ろうとあの店に入って、例のあの子が座ったんだ
まだ慣れてないんだろうな、たどたどしく挨拶されてさ、こっちも律儀に挨拶なんかして
でもいざ話してみるとこれがまた話しやすくて!たまに出る照れ笑いが可愛くて……今思うとその時点でオレ惚れてたんだなぁ………
でもその時は精神的にも参ってたからそんなこと考える余裕もなくて
それでついポロッと言っちゃったんだ

「オレ、会社クビになったんだ。もう死ぬしかないんだよ」って

馬鹿だよな、そんなこと言っても女の子は困るだけだって分かってたのにさ
案の定女の子はびっくりしてた……でも、やっちまった!と思って慌てて冗談だって言おうとしたら「いやです」って小さく聞こえたんだ
「え?」って聞き返したら

「死ぬしかないなんて、言わないでください。生きてたらそのうち絶対にいいことありますから!だから…えっと、生きてください!」

って言われちゃって
それ聞いて、大の大人が恥ずかしいくらい泣いちゃってさ
いやー…ほんとあの時は迷惑かけちゃったよ
でも、あの言葉にオレは救われたんだ

今?今は別の仕事してる
それが楽しくて仕方ないんだ!前の仕事よりやりがいがあるっていうかさ!ほんとあの子のおかげなんだよ!恩人だ!そうそう、これからまたあの子に会いにお店に行くんだ
はぁ……ほんとかわいいんだよユキちゃん…
あ!そうだ、お兄さんも一緒に行こうよ!奢るよ!
そんな遠慮しないで!さあさあ!!
地味かわいいユキちゃんを是非見てよ!

ここがその店なんだ!
さ、入ろうよお兄さ

「あ!ちょっと〜、いつまで待たせる気ですか!」

……………………え?ユ、ユキちゃん!?うわわわ、ど、どうしようお兄さんユキちゃんがオレに話しかけてきてうわわわわわ

「女の子待たせるなんて最低ですよほんと!」

あわわわわわ……って、あれ?え?

「あれ?あなたはたしか…最近よく来てくれるお客さん!知り合いなんですか?」

…えっ、と、その、え?ちょっと待って頭が追いつかないんだけど
え?お兄さん……ユキちゃんと、どういう関係………いや、見たまんまやって言われても!!

「?さっきからなんの話してるんですか?」

うわ、やっぱりかわいい…………でもこの時間に外にいるってことは今日はお店でないのかな…………え?出ない?……なんでお兄さんそんなこと知って…ハッ!まさか…!!
オレの気持ちを知りながらお兄さんアンタって人は…!心の中で笑ってやがったな!!
とぼけた顔しても無駄だ!……ユキちゃんの彼氏なら最初からそう言ってくれれば…!!
うわぁぁぁぁあん!!!お兄さんなんて嫌いだぁぁぁあ!!

「…なんだったんですか?」
「さぁ…飲み屋で隣になっただけや」
「それより、彼氏がどうとか言ってましたけど」
「めっちゃ勘違いされたな。俺がユキちゃんの彼氏やって」
「ププッ、そんなことありえないですよねぇ」
「そうなんか?俺は別にかまへんけど」
「……えっ!!?そ、そそそんな、そんなこときゅ、急に言われても、その、心の準備が、」
「冗談や」
「………………真島さんのばか!!」
「いだっ!?」
「乙女の純情弄んで!もう知らない!」
「そない怒るなや。奢ったるから」
「…………ふん!しょーがないですね!奢られてあげます!」
「へーへー」



おしまい



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