「龍司くん!一緒に帰ろ!」
「おう、ええよ」
「今日のご飯なんやろなー?」

蒼天堀での出来事がきっかけで仲直りした2人と一緒に帰ることが増えた
普通に接してくれる2人といるのはとても楽しくて、龍司も自然と笑顔がこぼれた

でも2人の家の前で待っている母親の顔が見えた
『うちの子から離れろ』と言わんばかりの強すぎる視線を受けて、龍司は自然と2人から距離をとった

「龍司くん?」
「どないしたん?」

友人たちは心配そうに見上げてくるが、努めて笑顔を見せる

「ワシはここでええ。また明日の」

ヒラヒラと手を振ると向こうも笑顔で手を振り返してくれた
それを見た母親がまたしても強い視線を送ってくる
龍司は無意識に胸のあたりをギュッと掴んだ

(大丈夫、大丈夫や。あんなん怖くもなんともない。ワシは強いんじゃ)

そのままくるりと背を向けて来た道を走った





ひたすら走って、走って
苦しくて涙がこぼれて、ようやく足が止まった




「はぁ、はぁ…はぁ……っく、…ぅ、」

唇を噛んで、これ以上涙がこぼれるのを堪えた

(泣くんは、弱いヤツのすることや。ワシは強いから、泣かへん。泣くわけにはいかん)






息も整ったころ、ふといい匂いがしたので顔を上げるとまぐたこの前にいた

「…なんでワシここにおるんやろ」

分からないまま、腹が減っていたのでとりあえずたこ焼きを買った

「美味そうやな。1個くれや」

聞き覚えのある声にギョッとして後ろを振り向くと、いつぞやの喧嘩で初めて負けた相手が立っていた

「眼帯のおっちゃん…なにしてんねん」
「おっちゃんちゃうわ、お兄さんや」

眼帯の男は慣れた様子でたこ焼きを購入して向かいのベンチに座ると、隣をポンポンと叩き「こっちに座れや」と促してきた

「………」

龍司が素直に座ると驚いた様子だったが、男は特になにも言わずたこ焼きを頬張った

「ん、美味いなぁ」
「………ん」
「……なんやねん、暗い顔しとるなぁ。なんかあったんか?」

お兄さんに話してみぃや、とやけに楽しそうな男に少々イラッとしつつも、龍司は上手く言葉にできないままポツリポツリと話し始めた


「……アンタと会ったとき、ワシの他におったやろ…その、子どもが」
「んぁ?ああ、お前の友だちやろ?」
「…………最近、よう一緒に帰るんや」
「ええことやんか」
「……………あいつらのオカンがな、近付くな言うとる」
「……」
「…実際に言われたわけやないけど、目がな、言うてくるんや」
「…」
「でもええんや、ワシは。別に」
「ん?」
「もう、慣れた。1人のほうが楽やねん。あいつらとおったら危ないからな。ワシは1人でも平気や」
「……アホぬかせ」


今まで黙って聞いていた男が、大きくため息をついた
そしておもむろに手を伸ばしたかと思えば、綺麗に整えていた龍司の髪をぐちゃぐちゃにした

「なっ…!?なにさらすんじゃ!」
「お前はガキや。なんてことない、ただ図体がでかいだけのガキや。ガキは大人に甘えるもんや。強がってもいいことなんかあらへん……1人ってのは、辛いんやぞ」
「っ……」
「ええ子らやったやんか。あの子ら大切にしたり。親がどうとか関係ない…お前がどうしたいかや。あの子らもお前と一緒に遊びたいと思うとるんちゃうか?」

ガキが遠慮なんかするもんやないで、そう言ってまた乱暴に髪を掻き乱した
俯いたままの龍司の頭をグイと自身の肩へ押しつけて、今度は優しく頭を撫でた

「……、っ……ぅ………、」
「よーしよし、お兄さんの胸でいっぱい泣きやー」

茶化すような声、しかし背中を撫でる手はどこまでも優しい

龍司は久しぶりに、思いきり泣いた






「……ぁ゛ーー………」

ズビ、と鼻をすする
目は泣き腫らして赤くなっていたが、どこか気分はスッキリしていた

「おっちゃん、おおきにな」
「せやからお兄さんやって…まぁええわ。気ィが済んだらもう帰れや」

タバコを吸いながらシッシッ、とジェスチャーをする男に、龍司は「ほんまおおきに」ともう一度礼を言って、家路を急いだ









「………ほんま、独りはつらいで。……なぁ、兄弟」

ポツリと呟かれた男の独り言は、誰にも聞こえることなく煙とともに消えていった



おしまい



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