OTE騒動終了後の話


ゾンビ騒動がようやく落ち着いて街並も人々の生活も元に戻った頃
龍司はいつものように天下一通りの端でたこ焼きを作っていた
クルンクルンと器用にひっくり返して綺麗な丸を形作る手捌きはさすが関西人と言うべきか
お昼時も過ぎて客足も落ち着いたあたりで、龍司はその手を止めた
「ふぅ、ちょっと休憩するか」
熱のこもる小屋から出て、今しがた作ったたこ焼きを頬張る
(ん、美味いな。さすがワシや)
自分で作ったたこ焼きを心の中で自画自賛しながら、龍司は残りを全て腹の中におさめた





「…あれ、店やっとらんのか」
龍司が食後の一服をしていると不意に店の方から声が聞こえた
こっそり覗くとそこには大柄で長髪の男が立っていて、なにやらしょぼくれた顔をしいた
(…?見慣れん顔やな。まあ客なら出んわけにはいかんか)
見るからに堅気でないことは分かったが、どのみち客ということに変わりはない
龍司は吸いかけのタバコを灰皿に押しつけ急いで屋台の中へ戻っていった
「すんまへん…お待たせしました。なんにします?」
慣れない敬語を使いながら相手を見ると、なにやら嬉しそうにこちらを見る男と目が合った
(…?なんや?)
首をかしげつつ「お客さん?」と声をかけると、ハッとした顔をして「そや、注文せなあかんかったな」と小さく笑った

注文を受けた後、男はおもむろに口を開いた
「知り合いからな、ここのたこ焼きは美味いて聞いとってん」
「それは…どうもおおきに」
男はここらへんではあまり馴染みのない関西弁を使っていた
あまり話すような男には見えなかったが、お目当てのものが食べられるということでテンションが上がっているのかとても饒舌だった
「…たこ焼き食うんは久々やなぁ」
ふと静かになったあと、ポツリと呟かれた男の言葉に龍司は顔を上げた
「お客さんてっきり関西から来たんかと思ったんやけど…ちゃうんです?」
龍司が尋ねると、まさか質問されるとは思わなかったのか男は目を瞬かせて、それから小さく顔を綻ばせた
「関西出てから長いな。ここら辺やとあんまりたこ焼き食われへんし…せやからほんまに嬉しいわ」
「…ほーでっか」
素直に感情をさらけ出す男に若干照れつつ、龍司は出来上がったたこ焼きを容器に入れて男の前に差し出した
「どーぞ。できました」
「おお、じゃあ遠慮なく…」
律儀に両手を合わせて「いただきます」と呟いた男の姿がなんだかおかしくて、龍司はバレないように笑みを浮かべた




男がたこ焼きを食べ終わるのにさほど時間はかからなかった
ひたすら無言で食べていたが、食べ終わって「ごちそうさん」と呟いたあと、パッと顔をあげた
「めっちゃ美味かったわ…この辺でこんなたこ焼き食うたん初めてやで。ほんまおおきにな」
そう言って微笑んだ男になんともムズ痒い気持ちになりながら、龍司は「…こちらこそおおきに」と緩く口角を上げた


おしまい



オマケ(会話のみ)


「そういえばな、最近けーたいってやつ持たされてん」
「(最近?)…ほーでっか」
「この店いつもここにおるわけやないやろ?せやからな、連絡先登録してくれや」
「は?」
「ここで店やりますーってこと伝えてくれればええから」
「はぁ…まあええですよ」
「よっしゃ!ならさっそく…ほれ」
「??なんでアンタのケータイを渡されなあかんのや」
「登録のしかた分からへんから俺のも頼むわ」
「アンタ……そういえば名前なんて言わはるんですか」
「俺か?冴島や、冴島大河。あんたは?」
「ワシは…郷田です。郷田龍司」
「龍司な。よし、覚えたで」
「……はい、登録しときましたで」
「おお、ありがとうな…じゃあもう行くわ。ほなな龍司、また来るわ!」
「お待ちしとりますー」




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