森本さんと体の関係を持つようになったきっかけは、まあ些細なことだ。
最近そういう店に行ってないと呟いた彼に、「ならワシが相手しましょうか」と冗談半分で言ったら、あれよあれよという間に服を脱がされ押し倒され……。
よほど溜まってたのだろう、とその時はなんとも思わず女役に徹した。
体の相性はいい、と思う。
腹の奥を突かれるたびに甘い鳴き声が意図せず己の口から溢れて、その広い背中にすがりついてしまう。
セックスというのはこんなに気持ちいいものだっただろうか、と考える間もなく何度も精を吐き出してしまった。
森本さんも何度か中に出したが、何度出しても萎えるどころか硬度を保ったままだ。
息が整わない内に律動が再開されてしまい、そこからもたらされる快楽はというと、絶頂を覚えた身体にとってはもはや毒でしかない。
自然と涙が頬を伝って、甘く鳴きながら子どものようにしがみつくことしかできない。
それを見た彼は律動を緩やかにすると、安心させるように色んな箇所へ何度も唇を寄せて、頬を伝う涙を舐め取り、「とって食うわけじゃあないけぇ、安心せぇよ」と冗談っぽく笑った。
そして何度も唇を重ねて、舌を絡めて。
そうしていくうちに緩やかだった律動が徐々に激しくなって。
一際奥を突かれた瞬間、目の前がチカチカした。
腹の奥深くで出されたのが感覚で分かり、(孕んだらどーしよ)と有り得ないことを考えながら意識を手放した。



気がつくと見知らぬ部屋の見知らぬベッド、そして見知らぬ服を着ていた。
身体は綺麗になっていたが、情事の跡は服の隙間からそこかしこにあるのが確認できてなんだか恥ずかしくなる。
コンコン、とドアをノックする音のあとすぐにドアが開く。
そこに立っていたのは森本さんで、マグカップを2つとどこか申し訳なさそうな顔をして入ってきた。

「身体、平気か」
「ぇ、……ああ、はい。平気ですよ」
「そうか……無理させてスマンのぉ」
「いや……ワシも…気持ちよかったし……」

実を言うと着ていた服から彼の匂いがして会話どころではない。
記憶にあるだけでも散々抱かれたにも関わらず、再び欲望が身をもたげていた。
体の相性がいいどころの問題ではない。

「あ、あの……っ」
「どうした」

こちらを見る目は普段の彼の姿だ。
昨日はあんなにギラギラと欲に溢れた目をしていたのに。
そのギャップにもやられてしまう。

「あの……森本さん、ワシ…」
「ん?」

『あなたじゃなきゃダメな体になっちゃいました』とでも言ってしまおうか。
きっとこの人は困るだろうけど、そんなの知ったこっちゃない。
こうなってしまったのは彼との相性が良すぎたからだ。
責任はとってもらわなければ。

「やめぇ、昇喜郎」
「っ、え……」
「そがぁな目で見られたら……止まらんくなるけぇ」

目の色が変わった。
これは、昨日と同じ目だ。
ゴクリと喉が鳴って、心臓がうるさくなる。
全身で彼を欲している自分がいる。

「止まらんでください……」

触れて欲しくてたまらない。

ああ、早く。
早くあなたが欲しい。

「おれをたべて」

両手を差し出してそう言うと、間髪入れずに押し倒され唇を塞がれる。
ああ、もっと、もっと!
これから彼が与えてくれるであろう快感と絶頂を思って身体を震わせながら、彼の広い背中に手を這わせた。


おしまい。



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