いつだったか、猫を拾ったことがある。
雨の日、紙袋の中でか細い声を上げて泣いていた。
当時転がり込んでいた家の主である女に任せていたが、その後色々あって猫ともどもその家を飛び出したのだ。


勝将が引き止めるのを無視して、夜の街を散歩しているとふとあの猫のことを思い出して、自嘲的な笑みがこぼれる。

(……あの猫、元気じゃろォか…)

そんなこと考えながら賑やかで華やかな場所を一歩奥に入る。
すると先程までの喧騒も届かない薄暗くて寂れた路地に入った。
あまり人の往来がない場所だが、この空気は妙に落ち着く。
チカチカと点滅する街灯を通り過ぎようとすると、下の方からガサガサと音がした。

「ん?」

目を向けると、あの時より少し大きくなったあの猫がゴミの山から「みゃぁ」と鳴いて顔を出した。
猫は真っ直ぐこちらへ歩いてきて、足元で身体を擦り付けはじめた。
おそるおそる手を伸ばすと、猫は自ら頭を差し出して撫でられてくれた。

「元気じゃったんじゃのォ……」
「んにゃぅ」

ゴロゴロと喉を鳴らす猫に思わず笑みが零れる。
しばらく戯れたあとそろそろ帰らないと、と立ち上がって歩き始めれば猫はそのままついてきて、「一緒に行くか?」と尋ねると嬉しそうに「にゃぁ」と鳴いた。


その後大友家に連れ帰ると、たちまち猫は人気者になった。
猫は彩のことが気に入ったらしく、ずっと離れないでいる。
勝将や銀次郎がどちらかに触ろうとすればすぐに威嚇をするくらいだ。
なかなかいいボディーガードである。


おわり



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