強くて、綺麗で、とっても素敵なあの人。
いつだって周りには人がいて、人気者。
羨ましい、なんて思わない。
比べることすらおこがましい。
ずっとクラスが一緒だ、なんてこともきっと彼女は知らないだろう。
「なァにしとんの」
「、え……」
だから、ニコリと笑う彼女の顔が目の前にある今この状況はきっと夢だ。
「はよ帰ろーや。あんた昨日も残っとったじゃろォ」
「……、…ぁ、え、えっと……う、ウチ…日直、じゃけぇ」
「相変わらずマジメじゃねぇアンタは」
はー、と息を吐く彼女は私の前の席に座って、じっとこちらの様子を眺めていた。
その一連の動きに困惑しつつ「……さ、佐藤さんは…はよ帰らんの?」と恐る恐る尋ねると、少し怒ったような顔をした。
「そんなにウチと一緒にいたくないんか?」
「え!?そ、そんなことないよ!」
「ならええじゃないの。今日はあんたと帰りたい気分なんよ」
彼女の言葉と夕暮れ時の柔らかな橙に染まった綺麗な笑顔にドキリとする。
私が男ならきっと今ので恋に落ちてる。
それくらいの破壊力だった。
「……佐藤さんも、彼氏さんに苦労しとるみとーじゃけど…彼氏さんも、苦労してそーじゃね……」
「…………そらァどーいう意味ね!」
「佐藤さんぶちかわええし、笑った時の顔も綺麗じゃし……さっきも、女のウチですら好きになりそうじゃったけぇ」
「な……!」
日直日誌を書き上げて職員室へ持っていったあと、下駄箱へ向かうまでの間もそんな会話をしていた。
言葉に詰まった彼女を不思議に思いながら見ると、真っ赤な顔で口をパクパクさせている。
「どーかしたん?」と尋ねると、「……ウチ、あんな……直球で褒められるんは、慣れとらんけぇ……」と俯いてしまった。
(かわいいなぁ)
彼女はとても表情豊かで、裏表もなくて、だからこそみんなから好かれるんだろうな、と変に納得した。
「ウチ、佐藤さんのこと好きよ」
「へっ……?」
「……ウチのことなんて、佐藤さんは知らんと思ォとったけぇ……。今日の今この瞬間だって夢じゃないかと思ってるくらいなんよ」
「あのね……さすがに三年間ずっと一緒じゃったけぇ、あんたの顔と名前は一致しとるよ?」
呆れ顔の彼女に「そっかぁ」と笑いながら返して、校門を出た。
するとそこには彼氏さんらしき人が待っていて、残念ながら彼女とはここでお別れ。
「また明日ね!」と声をかけると、「そーじゃね!また明日ァ!」と綺麗な笑顔で手を振ってくれた。
彼女は綺麗で、かわいくて、強くて、優しい。
地味な私なんかじゃ到底届かない、まさに高嶺の花。
そんな彼女を見かけるたびに、胸が締めつけられるのはなぜなんだろう。
おわり
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