岩ちゃんとは中学のときからつるんでいて、ずっと傍で見ていた。
怒った顔も笑った顔も全部好きで、からかって遊んだりしたこともあった。
予想通りの反応ばかりくれるから、楽しくてやりすぎることも何度かあったが、「全くお前は……」と呆れつつも許してくれた。
そんな時だ、あいつが現れたのは。
最初はただの高校生ってだけだったが、やけに突っかかってくるから調べてみると、出身中が敵対してるとこだった。
そんな奴にコケにされて大人しくしているような男じゃない。

それからずっと、岩ちゃんの目に映るのはあいつ……虎鮫だけだ。
新しくチームを作って、暴れ回って。
それだけで十分楽しかったのに、岩ちゃんが見ているのはずっと一人だけだ。
斗が現れると真っ先に前に出ていく。
それは虎鮫も一緒で、睨み合ったかと思えば急に笑いだして、かと思ったら殴り合いになるのが定番になっていた。

抗争が収まるとその二人は隣同士で座っていて、それを見るたびに胸がチクリとした。
岩ちゃんのあんな楽しそうな顔も、本気で殴りかかる顔も、一番間近で見れるのはいつだって虎鮫なんだ。


……虎鮫が亡くなったと岩ちゃんから聞いたとき、抜け殻のようになってただ静かに涙を流す彼を抱きしめてやることが出来なかった。
自分にそんな資格はないのは十分に分かっていたから。
心の中にあったのは、岩ちゃんにそんな顔をさせた虎鮫への勝手な妬みだ。
そのまま岩ちゃんは引退してしまい拓郎が二代目になったが、その後すぐ彼も逝ってしまった。
岩ちゃんが特別大事にしていた彼らが立て続けに亡くなり、岩ちゃんはきっと彼らのことを死ぬまで忘れないのだろうと思うと、羨ましささえ覚えてしまった。
そんな邪なことを思いながら、純粋に彼らの死を悲しむ岩ちゃんを抱きしめることなんて到底できなかった。


「……じゃけぇ、ワシはずっと岩ちゃんに片思い中なんじゃ」
「……なんでそれを今ワシに言うんじゃお前は」
「今しか言えんと思ォてのォ」
「アホか!!」


岩ちゃんの結婚披露宴前。
気持ちをそのまま本人に伝えると、拒否されることも引かれることもなく、ただ昔のように怒っただけだった。
「もっとタイミングがあるじゃろォが!!」と変な怒り方をする岩ちゃんがおかしくて笑うと「笑うな!!」と真っ赤な顔で怒られてしまった。


「お蝶から奪おうなんて思ォとらんよ。岩ちゃんが幸せならそれでええと思ォとるけぇ」
「……竹本、ワシは」
「虎鮫の分と、拓郎の分と、……たくさん幸せにならんとバチが当たるのォ。岩ちゃん」
「………ほォじゃの」


落ち着いたような、少し寂しげな笑みを浮かべた岩ちゃんに、こんな顔もできるようになったのかと感慨深くなった。
夜から始まった披露宴も終わり、それぞれが帰路につく。
空にはまんまるの月が浮かんでいた。
外に並んでいる単車と、その周辺にたむろする少年たちが目について無性に昔の血が騒ぐ。

(ああ、ええ夜じゃのォ)

そんなことを思いながら、気持ちを鎮めるようにタバコに火をつけ、夜空に向けて吐き出した。

おしまい。




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