今となっては習慣になった動作。
ポケットから少し皺になったタバコを取り出して、中の1本を口に咥える。
今度は年季の入ったライターを取り出し、高い金属音とともにライターの蓋が開き、火をつける。
タバコの先端に近づけるとすぐに赤らみ始め、やがて煙が出てくる。
ライターの蓋を閉めてポケットに戻しながらゆっくりと煙を吸い込んで、人差し指と中指の第二関節辺りでタバコを挟んで持って口から離し、ゆっくり煙を吐く。

若い頃から、なにか嫌なことがあるとこうやって深呼吸するようにタバコを吸った。
タバコが気持ちを落ち着かせて頭を切り替えるスイッチになっていた。

銘柄は昔から変わらない。
憎たらしい顔の、憎たらしいけど憎めない男からもらったあの1本。
あれが始まりだった。
あの頃は同じ銘柄が嫌で、何度か変えようとも思って他の銘柄に挑戦したりもしたが、結局戻ってきてしまう。

はー…、と大きく息を吐く。
あの頃よりは様になっていると自分では思っている。
……そろそろやめなければいけないのだが、毎年この日は必ず吸っているのも事実だ。


今日は虎鮫金次郎の命日である。


毎年仏壇に線香を上げに行ったあと、1人で墓参りをする。
墓にも線香を立てて、手を合わせる。
もうすっかり嗅ぎ慣れてしまった線香の匂いを掻き消すようにタバコに火をつけた。
わざと線香の煙に向かって煙を吐き出すと、混ざり合いながら空へ上っていく。
変わらないタバコの匂いが鼻腔をくすぐり、忘れたくとも忘れられないあの顔があの頃のまま鮮やかに脳裏に甦る。

「……おどれはいつまで経っても若いままじゃのぉ」

冷たい墓石をゆるりと撫でて、独り言を呟く。


ああ、毎年この日はやけに煙が目に沁みる。


終わり



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