ある日の休み時間。
次の授業をサボるためいつものように屋上へ行くと、据え置かれたソファーで春道が寝ていた。
くぅくぅと健やかな寝息をたてるその姿はなんとも気持ちよさそうで、思わずクスリとしてしまう。
喧嘩となると射殺すような目を向けて相手を圧倒する春道だが、目を閉じていると実年齢よりも幼く見えるから不思議だ。
トレードマークのリーゼントはセットされておらず、風でわずかに揺れていた。
目にかかる前髪を払おうと手を伸ばすと、いきなり目を開き手を取られた。

「、春道?」
「……」

しばらく無言でお互い見つめあっていたが、突如グイと勢いよく引っ張られた。

「なあ、春…!」

身体を起こそうとするが妙に強い力で押さえ込まれ身動きが取れない。
目が開いていたので起きているはずだが先程から何も言わない春道を不審に思い顔を上げると、やはりじっとこちらを見つめる目と目が合ってドキッとした。

(ドキッてなんだドキッて!)

顔に熱が集まり鼓動も早くなるのが分かる。
押さえ込む力が少し緩んだスキに身体を起こすがすぐにまた引き寄せられ、今度は唇が自分のソレに触れた。

「っ、ん!?んん、ぅ…」

触れるだけの口付けを何度も繰り返され、ただでさえ早くなっていた鼓動がさらに早まる。

(っ…なんでこんなにドキドキしてんだ!)

自分の身体に起こる異変と今の状況でプチパニックになりつつ、なんとかして離れようと思い切り身体を起こした。
すると、先程までがっちり固定されていたあの力はどこにいったのかと思うほど、春道の手はあっさり離れた。
そして、最初からそこにあったとでもいうように腹の上に鎮座していた。
当の本人はというと、何事も無かったように健やかな寝息をたてていて、少し腹がたった。

(……やわらかかったな…)

人差し指で唇をなぞる。
先ほどまでの感触を鮮明に思い出し、顔に熱が一気に集まる。

「…誰かと間違えただけ、だよな」
(そうだ、間違えただけだ。寝ぼけてたんだきっと)

自分を納得させようと一人呟き、それと同時に胸に走った少しの痛みには気付かないふりをした。



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