午後8時13分。
「初日の出が見たい」と言い出したゲンがあまりにもしつこいので、大晦日からゲンの家に泊まることにした。

「おーっす。ゲンいるかー?」
「鍵開いてるから入っていーぞ!」

中から聞こえてきた声に苦笑いしながら、ドアノブに手を伸ばした。


午後9時28分。
風呂から上がって着替えたあと、こたつに入ってバラエティ番組を見ながらみかんを食べた。
剥いて半分に割ってそれを1口で食べて残りの半分をまた1口で食べて新しいみかんを剥いて…を繰り返していると、山盛りだったみかんはいつの間にか皮だけになっていた。

「ゲン」
「なんだよ」
「みかん無くなった」
「は!?」


午後10時05分。
十三と将五がやってきた。
将五は眠そうな目を擦りながら「こんばんわ、ゲン兄ぃと鮫さん」と笑顔を見せた。

「おう!眠いなら寝てていいぞー。ちゃんとおこしてやっからな!」
「うん……」

ついて早々、将五は寝室へ入っていった。
十三はこたつに入ってきて。はぁ…と息をついた。

「今年もお前らと年越しか」
「いーじゃねーか別に!」

ダハハ、と笑って十三の肩を叩くゲンを鬱陶しそうにしながら、「なんで今年は初日の出なんか見たいんだ?」と尋ねた。

「ンなもん、見たことねーからに決まってんだろ!」

ドヤ顔で出したゲンの答えに、2人でため息をついた。


午後11時36分。

「ふゎ〜〜ぁ……」

眠くなってきた。
ゲンはどうやら初日の出の時間まで起きているようで、「だらしねーな鮫」と笑っていた。

「俺も寝る」
「え…マジ?」

十三もスッと立ち上がり、将五が寝ついている寝室へ真っ直ぐ歩いて消えていった。
寝つけそうな場所がソファーしか無かったので、来客用の毛布(ゲンが出していた)を被って横になった。
ソファーのひんやりとした触感と毛布の温かさに眠気が一気に押し寄せてきて、気がついたら寝ていた。


午前5時02分。

「起きろ、鮫」
「っげふぅ!?」
「あ、起きた!」

低い声と腹への衝撃で微睡みが吹っ飛び一気に覚醒した。
目を開けると腹の上には「おはよう鮫さん!」とやけにテンションが高い将五が乗っていた。
ドッキリ大成功!とでも言うような笑顔だったので何も言えなかった。
ふと上を見ると十三が見下ろしていて普通に怖かった。

「もっとソフトに起こせよな…」
「新年だから派手にいこうと思ってな」
「アホか」


午前5時18分。

軽く身支度を整えると、肝心の人物が居ないことに気づいた。

「十三」
「なんだ」
「ゲンは?」
「起きなかった」

ゲンはどうやら寝落ちたらしい。
十三は何度も起こそうと試みたが、曰く「何をやってもダメだった」らしい。
それなら仕方ない、ということで3人で行くことにした。


午前6時28分。

「おー出た出た」
「すげー…きれい」
「そうだな」

穴場スポットで初日の出を堪能した。
初日の出を待つ間に将五は鼻の頭と頬が赤くなっていて、十三はそんな将五に近くの自販機で購入したコンポタを渡していた。
初日の出を見た証拠を撮るために持ってきていたインスタントカメラでパシャッと1枚。

「将五ー、十三と並べー」
「はーい」
「カッコよく撮れよ」
「それはできませーん」

十三と将五を並べて日の出をバックにまた1枚。
「今度はオレが撮る!」とせがんだ将五にカメラを渡して十三と並ぶ。

「アニキー!鮫さん!笑ってー」
「「無理だ」」

そう言ったと同時に切られたシャッター。
将五はずっと笑っていた。


午前6時58分。

十三たちを先に行かせたあと、開いていたスーパーでみかんを購入した。

「…あー、さむ」

はぁ、と白い息が口からこぼれる。

(さっさと行くか)

愛車に跨ってエンジンをふかす。
さっさとコタツでみかんが食べたい一心でバイクを走らせた。


午前7時18分。

帰宅してもゲンはまだ寝ていた。
十三はほっとけと言っていたが、さすがに風邪をひくと思い寝室まで担いで放り投げた。
それでも起きないのでよっぽど眠かったんだろう。

「あー寒かった」
「おかえり鮫さん」
「ただいま」

お笑い特番に夢中な将五は先程からずっと笑っている。
十三は時々小さく笑うのがなんとなく不気味だ。
同じ腹から産まれてここまで違うのかとしみじみしていると何故か十三に殴られた。

「お前なんか変なこと考えてたろ」
「かっ…んがえてねーよ??」
「考えてたな」


午後12時04分。

昨日食べる予定だったが手をつけていなかったカップ麺を食べていると、寝室からどたばたと騒がしい音がした。

「は、初日の出は!?」
「もう見てきた」
「今昼だよゲン兄ぃ」
「言っとくが何度も起こしたからな」

寝癖も顔も酷いゲンが呆然とこちらを見ていた。

「うそだろ…」

ガクンと膝から崩れ落ちたゲンが不覚にも面白くて笑ってしまった。

「笑ってんじゃねーよクソ鮫!!」

涙目で背中を蹴るゲンに笑いながら「みかん食うか?」と尋ねると「もらう!!」と勢いよく返事をしてこたつに入ってきた。

「初詣は絶対行くからな!!」
「分かった分かった」

未だブスくれた顔のゲンの頭を乱暴に撫でると「いてーよ!」と手を跳ね除けられ、その態度にまた笑った。


午後2時47分。

「じゃーねー!」

将五は友だちと行くと言って家をあとにしたので、初詣には3人で行くことになった。

「おみくじ引くぞー!」
「鈴蘭やら百鬼やらに会わなきゃいいけどな…」
「会ったとしても新年早々喧嘩にゃならんだろさすがに」

そんなことをダラダラと喋りながら近くの神社へ徒歩で向かう。
さすが元日なだけあって人が多い。

「各々で行動するか」
「そだな!」
「じゃあ鳥居のとこに後で集合な」


午後4時09分。

お参りしたあとおみくじを引いて、敢えて中身は見ずにポケットにそのまま入れて鳥居に向かった。
チラホラ知った顔が歩いていたので声をかけつつ歩いていると、後ろから「鮫さん!」と聞きなれた声がして振り向いた。

「おお、好誠!おめーもいたのか」
「はい!源次と玄場も一緒です」
「そーかそーか」
「鮫さん、あけましておめでとうございます!」
「おう、おめでとう。今年もよろしくな」
「はい!」

ぶんぶんと手を振る好誠に手を振り返して鳥居へとのんびり歩く。

「鮫ー!おっせーぞテメー!」
「悪ぃ悪ぃ。途中で好誠に会ってな」
「マジ?オレは源次に会ったぞ」
「あー、一緒に来てたって言ってたなそういや」

わたあめを頬張るゲンは先程までの不機嫌さはどこへ行ったのかと思うほどご機嫌だった。


午後4時16分。

ゲンと煙草を吸いながらぼーっとしていると、十三がゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「おせーぞ十三!」
「知るか」

ぶんぶんと手を振るゲンに既視感を感じるがそこは気にしない。

「分かったことがある」
「あ?何だ急に」
「俺は人混みが苦手らしい」

はぁ…とため息をつく十三。
ゲンと顔を見合わせると同時に吹き出して大爆笑してしまった。
まあ当然のように殴られたが。


午後4時38分。

少しずつ傾いてきた日を背に3人で連なって歩く。

「おみくじどーだった?」
「そういえばどうだったかな…まだ見てねーんだよ」
「さっさと見ろよ!」
「俺は大吉だったな」
「十三マジ?俺は中吉!」

そんな会話を横目にみながらポケットの中に入れっぱなしだったおみくじを取り出した。

「どーだ?」
「吉、だな」
「ぷぷ、そーかそーか」

ばしばし肩を叩くゲンを鬱陶しく思いながら、くじをポケットに突っ込んだ。


「ま、今年もよろしくなおめーら!」
「今年もお前らとつるまなきゃいけねーのか」
「そー言うなよ十三!」
「そうだそうだ」
「…頼むから迷惑はかけんじゃねーぞ」
「かけたことねーだろ!」
「俺はかけた覚えねーな。ゲンは知らねーけど」
「おめーら2人ともだ馬鹿野郎」


ダハハ…と響く明るい笑い声が新年の清々しい夕空に溶けていった。


おしまい




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