「〜〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪」

深夜、静まり返った街の中に音程が少し外れた鼻歌が響く
相当酔っているのか、歩きながらよろけたりあらぬ方向へ向かったりと少し危なっかしい
しかし当の春道は気にもとめずに音程の外れた鼻歌を歌っている

「うるせぇ…」

ため息混じりに呟くが聞こえてないようだ

久しぶりに高校の腐れ縁の男から珍しく飲まないかと連絡があり、しこたま飲んだあとさあ帰るかという時「今日は歩いて帰ろう」と言い出して、そのまま腕を引っ張られて今に至る
今は既に引っ張られてはいないが酔いの勢いでどこぞに行かれては困るので、あらぬ方向へ行こうとした時だけ春道愛用のスカジャンを軽く引っ張って軌道修正していた
引っ張られた本人はその都度キョトンとした顔を見せたが、一瞬後には何事もなくまた鼻歌を歌っていた

「……」

大きく手を振って歩いていた春道の手をおもむろに掴んだ
同時に鼻歌が止まり、軌道修正した時と同じような顔を見せた
掴んだはいいもののその後のことを考えておらずどうしようかと考えあぐねている中、春道はじっと繋がれた手を見ていた。
そして酔いと冬間近の寒さで赤らんだ顔に蕩けそうな笑みを浮かべ、「りんだの手、あったけーなぁ」と舌っ足らずな声で呟いた
春道はそのまま感触を確かめるようにグニグニと触る

「ごつごつしてる」
「…そりゃあな」
「すげーがさがさ」
「……悪かったな」

もう離せ、と言いかけたところで「でも、」と春道が続ける

「りんだの手、すげーすき」

そう言って笑顔を見せた春道に面食らって返す言葉が浮かばなかった

「………そ、うか」

一拍置いて絞り出したありきたりな返しにもにこにこと笑ったまま春道は自身の手を絡ませた

「うん、すき。な、このままかえろーぜ」
「……ああ、そうだな」

顔が熱い
とうとう酔いが回ってきたか
………そういうことにしておこう

おしまい




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