卒業式も無事に終わって、ヤスたち後輩からありったけの花束とタバコをもらった。
そのままポンのバイクの後ろに乗ってマコを迎えに行く。
到着する頃には仕事が終わっていたようで、作業着で待っていた。

「卒業おめでとさん」

タバコをふかしながらそう言ってニカッと笑うマコは、誰よりも先に大人になっていた。

ポンの就職先のバイク屋にバイクを停めさせてもらって、3人で近所の居酒屋へ向かった。
道中話題になるのは、留年になった春道のことだったり1年生たちの生意気っぷりだったり、中学時代のことだったり…とにかく話は尽きなかった。
居酒屋へ到着すると亜久津が待っていて、この日は初めて4人で飲んだ。
亜久津はようやく就職が決まったようで、酒も入っていたからか感極まって終始泣いていた。

「お前らとも色々あったけど…ほんと、出会えてよかったよ」

それからは思い出話に花が咲いた。
リンダマンに初めて挑戦して完膚なきまでに叩きのめされたことだったり、阪東と対立していた時のことだったり、春道とのことだったり。
うん、やっぱり話題になるのは春道のことが多かった。
それぞれに春道との思い出があり、そのどれもが強烈だった。

「なんだかんだあってもよ、高校生楽しめたのって春道くんのおかげなのかもな」
「…そうだな。どんな日でもアイツがいたら退屈しなかったしな」
「ポン、お前春道に俺の仕事場に来るなってちゃんと言ったか?」
「………あ、忘れてた」

…春道の話になると笑いが絶えない。
本当に春道が来てから鈴蘭は変わった、そんな気がする。
リンダマンとの死闘は未だに脳裏に焼き付いて離れない。
肝心の春道は、まあ留年したんだが。


そろそろ帰るか、と誰かが言い出した。
亜久津は机に突っ伏して寝ている。
ポンは呂律の回ってない口調でマコに絡んでいる。
マコはそれに応えつつ、泉ちゃんがどれだけ可愛いかを惚気けている。
みんなが就職して大人になっていく中、オレだけが取り残されたような、そんな気がした。

「ヒロミはいつ阪東と合流するんだ?」

唐突にマコが問いかけてきた。

「…そうだな、荷造りはもう終わってんだ。酔いが覚めたらこの街を出るよ」
「……そうか。寂しくなるな」
「たまには帰ってくるって」
「帰ってくるときは連絡しろよ?いつでも出迎えてやるから」

阪東も一緒でいいからな、と笑うマコに、今まで感じないようにしていた寂しさが溢れ出して目から涙が一筋こぼれ落ちた。
それを「オレも酔いが回ったみたいだ」とごまかして笑うと、マコは「そうか」とだけ呟いて、それ以上は聞かないでいてくれた。


街を発つ日。
電車が出る前に鈴蘭の校門前で、ポンとマコと一緒に写真を撮った。
中学からずっと一緒にいた2人。
どんな不利な喧嘩でも、こいつらがいたら大丈夫だと思えた。
どんな時でも背中を押して励ましてくれた。
最高の仲間で、大事な親友。

「ポン、マコ」

「ん?」
「なんだ?」

「今までありがとな。お前らのおかげで、すげー楽しかった」

「…おう」
「…ぉぅ…ぐすっ」

「これからどんな出会いがあるか分からねーし、いつ帰れるかも分からねーけど…それでも、オレの帰る場所はいつだってお前らのところだから。ちゃんと待っててくれよな」

「ああ、任せとけ」
「……ぉぅ…」

ずび、とポンが鼻を鳴らす音が聞こえた。
それがなんだかおかしくて、マコと一緒になって笑った。

2人は改札の前まで見送ってくれた。
切符を買って改札口へ向かう。
振り返ると、2人は笑って手を振っていて。
だからオレも、笑って手を振り返した。

「元気でな、ヒロミ!」
「阪東と仲良くやれよー!」

「努力はする!お前らも元気でな!」

そして向き直り、2人を振り返らずまっすぐ電車へ向かった。

電車に乗り込み窓際の席へ座る。
見慣れた街の景色を電車の窓から眺める。

(この街も、変わっていくんだろうか)

オレたちは鴉だ、と誰かが言っていた。
どんなに時代が変わってもその生き方は変わらない、変えられない鴉なんだと。

『いいじゃねーか、カラスでよ。オレはカラスで十分だぜ!』

いつだったか、春道がそんなことを言っていたとヤスから聞いた。
春道、春道か。
あいつもたまにはいいこと言うんだな。
そういえば結局ブルの免許取得祝いで会って以降、春道には会えずじまいだった。
会って礼でも言いたかったが、あいつはテレ屋だからな。
照れ隠しで殴られたらたまったもんじゃない。

(…ま、あいつならどこででも生きていけるだろ)

なんたってカラスの代表格だし。

どこかで再会できたら。
阪東の分と合わせて一言礼でも言ってやるか。
いつになるかは分からねーけど。



「………元気でな」


どこにいるかも分からない自由な男。
お前に出会ってオレは、オレたちは変わったんだ。
だから、これからも変わってくれるなよ。
誰よりも高い場所で、誰よりも自由に飛んでくれ。


「春道」


お前はまさしく最高の男だよ。



おしまい。



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