最近、格闘家としてド派手なKOデビューを果たしてからというもの、リンダの仕事が一気に増えた。
スペシャルマッチやら、雑誌のインタビューやら、スポーツ番組への出演やら…最後に交わした会話はいつだったっけか。
不確かな記憶を辿るとざっと2週間ほど前だった。
一緒に住んでるのに。顔を見ない日などないくらいだったのに。
最後にした喧嘩も2週間前だった気がする。
リンダは一応帰ってきてるらしい。
でもその時間にオレは寝てるし、オレが起きた時にはもういない。
いつも2人分のご飯を作って、寂しく1人でテレビを見ながら食べるのがココ最近の日課になってしまった。

今日はリンダがテレビに出る日。
本人には言ってねーけどちゃんとチェックしてる。
…テレビの向こう側で綺麗なおねーさんと笑ってるリンダを見て、いつも胸が苦しくなるけど。
「さびしい」なんて言ってやらねー。
言ったらつけあがるのは目に見えてる。
でもほんの少しだけ。

少しだけでいいから。


「………会いてーな」
「俺も会いたかった」
「なー……って、なっ、リ、リンダ!!??」
「おう」

ポツリと呟いた言葉に返事が返ってきて慌てて振り返ると嬉しそうな顔。くそ、ムカつく。

「寂しかったのか」
「うるせー!べつに、そんなさびしくなんか」
「そうかそうか、寂しかったか」
「さびしくねーっての!!」

よしよし、とでかい手で頭を撫でられて振り払えない自分がムカつく。くそ、うれしいと思っちまった自分が憎い。
されるがままになっていると、ふいに強く抱きしめられた。

「……ずっとこうしたかった」
「っ、りん…だ?」

目の前にふわふわなリンダの髪。
さっきのお返しとばかりに撫でると、抱きしめてた力がちょっと強くなった。苦しいぞリンダ。

「………………ただいま、春道」

小さく聞こえてきた言葉。
なんだ、お前も寂しかったのか。
しかたねーな、だったらオレも素直になってやるよ。

「おかえり、リンダ」

今日はうまい飯が食えそうだ。


おしまい



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