貴方に逢えるまで眠り続けたい

「…またか」

眠りから覚めると、涙を流していることが多かった
乱暴に拭って洗面所へ向かう
この涙の原因にはだいたい検討がついていた

もうすぐあの人が死んだ日だ
そして今日は、あの人と約束をした日だった

『大丈夫だって。あの約束、ちゃんと覚えてるよ』
『俺と勝負してもしお前が勝ったら―』
「…」

あの人の言葉を思いだしながら、リビングのソファーに座り煙草に火をつけた

結局約束が果たされることはなく、あの人は逝ってしまった

「俺だけがこんなに…バカみてーだ」

煙草を灰皿に押しつけ、ぼーっと天井を仰いだ
ゆっくり瞼を閉じる

『ヒデト』

あの人が自分を呼ぶ声が好きだった

『もっと笑えよ』

乱暴に頭を撫でてくれて、人懐っこく笑いかけるその仕草が好きだった

『約束な』

たまに見せる真剣な顔が好きだった
夢の中ではこんなに近くにいるのに、触れようとすると離れてしまう

「夢の中でくらい、いいでしょ」

小さく呟いて手を伸ばすが、あの人は困ったように笑うだけで

『ごめんな』

夢から覚めるその瞬間、あの人がそう言った気がした
目を開けると、また涙が溢れていた
グス、と鼻を啜りながら部屋のカーテンを開けると太陽が元気よく部屋を照らした
それはまるであの頃、輝いていたあの人のようで
自分はあの人に生かされて今ここにいるのだと思うと、なんだか笑えてしまった

「今年はちゃんといくから、おとなしく待っててくれよ」

時刻は昼を少し過ぎていた
バンドメンバーからはメールと着信の嵐
それを無視してゆっくりと出かける準備をする
週末に休みをとって里帰りしよう
アイツは一緒に行きたがるだろうか、もしそうならそれでもいい

「さて…」

今夜はいい夢が見られそうだ

おしまい




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