憧れてやまないあの人が、女と歩いているのを見かけた。
翌日見かけたことを告げると、「彼女なんだ」と言われた。

「いずれ結婚しようと思っててな…もう同棲してるんだ」

照れ臭そうに頬を掻きながら、それでも彼はハッキリと「結婚する」と、そう言った。
俺は、彼にそこまで言わせた彼女のことが嫌いになった。

それから1週間後。
彼が亡くなった。
事故だった。
3日後、葬式があげられた。
一般参列者として参加した俺は、彼の母親に肩を抱かれて人目もはばからず泣き叫ぶ彼女の姿を見た。
そういう風に泣ける彼女が正直羨ましいと思ってしまって、いたたまれなくなり線香をあげないままその場を離れたのだった。

それから、毎年その日に線香をあげにいった。
上京してもそれは変わることはなく。
いつの頃からか、毎年その日は誰かに酷く抱かれたいと願うようになった。
別段男が好きだというわけでもない。
溜まればデリヘルなりそこらの女を掴まえて抱く時もある。
それでも、その日だけは。
その日だけは男に抱かれたがっている自分がいた。

何年か前の、命日の日。
わざわざ俺の家を訪ねて「アンタが好きだ」と言った男がいた。
それが元鳳仙学園頭、美藤竜也の弟・秀幸だった。
地元にいた頃は敵対していたにも関わらず、赤くなった顔を隠しもしないで真剣な目でこちらを見て、再び「好きだ」と言った。
そんな秀幸にもたれかかり、右腕を背中に回し左手を肩に乗せて。

「お前、俺が今すぐ抱いてくれって言ったら抱いてくれるのか」

そう低く囁くと、秀幸は身体を強ばらせながらも小さく頷いた。




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