あの人との出会いは突然だった。
中学1年の頃母親の浮気で両親が離婚し、俺は父親に引き取られた。
だがその離婚が原因で、父は酒を飲み暴力を振るうようになった。
そんな家に帰りたくなくて、夜遅くまで街をぶらつくようになった。
何度も補導され、警察のお世話になり、そのたびに暴力を振るわれた。
中3に進級して間もない頃。
俺は父を包丁で刺した。
度重なる暴力に耐えかねた末の結果だった。
タイミングよく近所の人が回覧板を持ってきてくれたおかげで、父は助かったのだが。
近所の人の証言と、俺の身体にある無数の打撲痕が決め手となり、父の虐待が明らかになった。
そして俺は保護施設にいれられた。

施設に入った俺はその後高校には進学せず、面白いことがないかと街をぶらつくようになった。
あれはとある雨の日。
傘もささずに街を歩いていた時だった。
電柱の影に、白い子猫が段ボールに入れられていた。
ひどく弱っていたので、抱き上げて必死に子猫の身体を拭いた。
ふいに、雨がやんだ。
それと同時に影が落ちて。

「なーにしてんだ、少年」

低くて落ち着いた声が、降ってきた。
慌てて振り向くと、鮮やかな金髪の男がその巨躯を屈めてこちらを優しく見つめていた。

「…ぁ、ね、猫を…猫が…その、濡れて、て」

そんな目に見つめられることに慣れてなくて、思わず顔をうつむけた。
男が俺の懐をのぞき込み、「こっちによこしな」と手を差し伸べてきた。
素直に猫を渡す。
その時触れた手のあたたかさに、酷く安心して思わず涙が溢れた。

「弱っちゃいるが…まだ大丈夫だな。お前も来い…ってなんで泣いてんだ」

子猫を懐にしまい、俺の濡れた頭を困った顔になりながら優しく撫でた男。
その手の大きさに、優しかった頃の父を思いだし、涙が止まらなかった。

「ほれ、傘に入れ。なにがあったかは知らねーが、このままじゃお前も風邪をひいちまう」

とりあえず俺の家に行くぞ、そう言って強引に傘の中に引き入れられ、逃げないようにと腕を掴まれたまま、男の家へ向かった。
その男の背中には、『萬侍卍帝国 九頭虎會』と書かれていた。
その男が、やがて日本最大の派閥として全国に名が知られる萬侍帝国の初代総長、九頭神虎男だということを俺はまだ知る由もなかった。


おしまい




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