「鮫、聞いてくれ…俺な、3ヶ月前から龍ちゃんと付き合ってるんだが」

普段と変わらず、いつも通りブライアンでコーヒーを飲みながらくだらない話をしてる最中。
突然十三から聞かされたのはまぁまぁ衝撃的な言葉だった。

「そ、そうか…」

驚きつつも、そういうことにたいした偏見も持ってなかった俺は、まぁ普通に返した。

「おう…それでな、ちょっとした悩みがあるんだ」

俺の反応を気にするでもなく普通に話を進める十三。

「お前にしか言えない悩みなんだ…」

真剣な声色で言われてしまっては、古い付き合いだし応援したくなる気持ちもあるから聞くしかあるまい。

「なんだ?」

尋ねると、急に項垂れて。

「……まだ、手も繋いでない……」

はぁぁぁ…と長いため息をついて、「こんなはずじゃなかったのに…」と机に突っ伏した。
そんな十三を見て思わず吹き出した。

「ぶっ…ははは!お前でもそーいう悩みを持つようになるか!!そーかそーか!!!はははは!」

ヒーヒーと涙を流して笑う俺を睨みつけ、「こっちは笑うどころじゃねーんだよ…」とため息をついた。

「手を繋ごうとすると変な顔するし…キスしようとすると殴られるし…なんなんだ…俺ら付き合ってるんじゃなかったのか」

あああもうどうしたらいいんだ…とうなだれる十三がさすがに不憫になってきた。

「お前、あいつになんて告白したんだ?」
「え…『龍ちゃん、付き合ってくれ』って…普通だろ?」
「そのあとあいつ、なんて答えた」
「…『ああ、いいぞ』って…」

十三からそこまで聞いて、俺の中でひとつの結論が出た。

「それ、龍信のやつ『龍ちゃん、(どこかに)付き合ってくれ』だと思ったんじゃねーのか?」

告白のあと、どっか行ったか?と尋ねると、十三は顔面蒼白になりながら「…行った」と呟いた。
もう爆笑だ。
笑いすぎてむせたら、十三に殴られた。
人の恋愛話がこんなに面白いと思った事は初めてだ。
その苦しんでる当人が、女泣かせで有名な十三なんだからさらに面白い。

「あー笑った笑った…とにかく告白し直したらいいんじゃねーか?それでも分かってないようだったら無理やりキスでもしちまえよ」

煙草に火をつけて煙を吐き出しながらそう言うと、「…おう、行ってくる」と喫茶店を飛び出していった。

「十三のやつは出てったぞ。そろそろ出てこいよ龍信」

奥の席に背中を向けたまま声をかけると、龍信がゆっくりとさっきまで十三の座ってた場所に腰かけた。
その顔はほんのり赤くなっている。

「…いつから気づいてた」

特徴的な低い擦れた声。

「バイク停まってんのが見えたからな、いるのは分かってた」

笑いながらそう答えると、「…十三は、どこに行ったんだ」と尋ねてきた龍信。

「お前を探しに行ったぞ」

告白しなおす、ってな。
煙草をふかしながらそう告げると、さらに顔を赤くして。

「行かねーでいいのか?」

そう聞くと「…ど、どんな顔して会えばいいのか、分から、ない…」と赤くなった顔を俯ける。
そんな彼の頭をガシガシと乱暴に撫でて、「そのままでいい。いいから行ってこい」と無理やり席を立たせて外へ押しやった。

その後どうなったかなんて俺に聞くな。
とりあえず…戻ってきた十三が異様なテンションの高さだった。
それだけで察してもらえるとありがてぇな。


「鮫!聞け!キスできた!しかも龍ちゃんからしてくれた!あの可愛さ…くぅっ!お前にも教えてやりたいくらいだ!」
「へーへーそーですか…まぁ確かに顔赤くした龍信は可愛いよなぁ」
「…なんで知ってんだ」
「え?…あ」
「コロス」
「おい待て早まるなやめ…ぎゃぁぁぁぁ!!」


おしまい!




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