同じジムに通い始めて、1ヶ月くらい経ったある日。
「美藤」
2人で飲みに行かないか、と龍信が誘ってきた。
前ほどこいつのことは嫌いじゃない。
前より一緒にいることが増えて、色んなこいつを知っていくうちに、俺はこいつが気に入りはじめていた。
だから特に断る理由もなく。
俺は二つ返事で了承した。
「ここだ」
連れてこられた先は龍信の住むアパートの近くにあるバーだった。
聞くと、前々から気になってはいたが1人で入るのはちょっと…というわけで俺を誘ったらしい。
カラン…
店のドアを開けるとカウベルが鳴った。
店内にはJAZZが流れており、橙の照明でところどころ照らされているだけで、すこし薄暗い。
バーカウンターには壮年のバーテンダーがいて、入店した俺らを「いらっしゃいませ」と恭しく出迎えた。
店内にはあまり人の気配はない。
龍信はカウンター席に座り、俺は1つ席を空けて隣に座り、酒を注文した。
何杯飲んだのだろう。
今は何時だ?
明日は確か2人とも休みだったな。
いつの間にか龍信がすぐ隣にいて色んな話をしている。
「お前に出会ったあの時から、俺はお前の物悲しい顔が頭から離れなくてな」
ふふっ、と笑う龍信の顔はほんのり赤い。
あの時の俺は、アニキが死んで自暴自棄になってた頃だった。
憂さ晴らしがしたくて、あの夜あの場所へ行ったんだ。
そしてこいつを…
「あの出会いがあったから、俺らはこうして酒が飲めるくらい仲良くなったんだろうなぁ」
と笑う龍信を見てると、自分のあまりの心の弱さに涙が出てきた。
ただの八つ当たりだった。
俺はアニキに憧れていて、アニキみたいになりたくて。
でももう追いつくこともできない、遠い存在になってしまったアニキが憎くて。
その鬱憤が爆発して、こいつをぼこぼこにしたんだ。
そんな自分と飲めるのが嬉しいなんて、こいつは本当に馬鹿だ。
「?どうした…どっか痛むのか?大丈夫か?」
龍信が顔をのぞきこむ。
泣き顔を見られたくなくて慌てて俯き。
震えそうになる声を我慢して、「どこもいたくねーよ…だいじょーぶだからきにするな」と龍信を押しのけたが、お互い酔ってるもんだから。
俺は力も入らないし、龍信はもたれかかってくるし。
「泣いてるだろ…俺はお前の泣き顔を見たくない」
だから泣くなよ、と頬に手を添えられ涙を拭われた。
「…ばか、じゃねーのか」
「悪かったな馬鹿で」
熱くなった頬。
それでもこいつの手があったかくて、どこか安心するから離したくなくて、添えられた手に俺の手を重ねて。
「いまだけ、いまだけでいい、から…
そばに…いて、くれ」
声が震えて、涙がこぼれた。
「…今だけ、なんて言うな。お前が望むなら、ずっと傍にいるから」
俺の頬から手が離れて、背中に回った。
息のかかる距離で「竜也」と俺を呼ぶ龍信の声に、俺はようやく抱きしめられていると気づいた。
気づけば、朝になっていた。
店を出て、龍信の家に泊まることになったのは覚えてる。
頭が痛い。何故か腰も。
少しだが喉も痛む。
そして隣には龍信が全裸で寝ていて。
俺もまた、全裸だった。
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