目の前から消えたはずのあなたが、少し手を伸ばせば届いてしまう距離にいる。あんなに焦がれていた姿は確かに存在していた。
「もう一生会えないんじゃなかったの?」
急にいなくなったと思ったら、いきなり現れて、迎えに来ただなんて。
「自惚れちゃうよ?」
側にいられるだけでいい。再び、あなたに会えるならと。どんなに願ったことだろう。
あなたがいなくなっても、実感はなかった。あなたは忙しい人だったから、会えないのが常で、私もそんな生活に慣れていた。
それでも、太陽が姿を消し、闇が世界を包むと、あなたのいない砂漠がどんなにさびしいものかを思い知らされる。あなたは砂なのに、砂はあなたじゃない。ひとりで崩れていく砂丘を見るのは辛かった。
「泣くんじゃねェよ。鬱陶しい」
強いデジャビュに襲われて、また涙が零れた。
『泣いている女は嫌いだ。面倒くせェ』
『泣かせるのは好きなくせに。クロコダイルこそ面倒くさいよね』
昔、確かにそんなやり取りをした。言葉は冷たいくせに、私が泣き止むまで側にいてくれた。今もあなたは葉巻をくわえたまま、気怠げに私を見下ろしている。
のどの辺りが苦しくて、上手く息が出来ない。私の顔を見て、あなたは長いため息をついた。
「そんなみっともねェ面を俺に見せるな」
乾いた指先が、頬に触れ、私の涙を乱暴に拭う。
「待ってたんだろ?」
吐き出された紫煙が静かに立ち上がる。あんなに嫌いだったこの香りも今はこんなに愛しく思える。
私には待つことくらいしか出来なかった。こんなことは二度とないと思っていた。会えるのは、夢の中だけだと思っていた。
「でも結局、夢にも出てきてくれなかったね」
「うるせェな。だから、迎えに来てやったんだろう」
腕を引かれて、体勢を崩せば、しっかりと抱きしめられた。忘れかけていた人の体温に包まれ、その懐かしい匂いに胸がぐちゃぐちゃにかき乱される。抑えていたもの全てが、溢れ出してしまいそうだった。
情けない嗚咽が洩れた。慰めるように、うなじを撫でる大きな手は、温かくて優しい。
「わたし、あなたを忘れてしまいそうだった」
さみしかった、と私は声を震わす。肩が濡れてしまうのにも構わず、あなたが私を抱いていてくれるから、涙はしばらく止まりそうにない。
/嬉しくても泣くよ