びっくりするよね と明るく笑った彼女は本当は少しだって笑っていなかった。
思えば、最初から。
俺を、男を、彼女はいつだって軽蔑したような目で見つめていたような気がする。でも、その瞳に、思えば初めから胸騒ぎがしていた。
「君って、女なんかちょろいって思ってるんじゃない?まあ、その容姿なら仕方ないことだと思わなくはないけどさ」
「……なんだ。唐突に」
「君の一挙一動が計算し尽くされているとしたら、相当きもいから、やめた方がいいよって話」
面倒だから、話の先を読んでしまおう。この後展開される論理を追えば、要するにこういうことを言いたいのだろう。気を持たせるような思わせぶりな行動を直ちに慎め、と。つまりはそういうことだろう。
「君が、仮に、もし、私に惚れても、責任とれないから」
その挑むような顔つきに、いつから胸がときめいていたかわからない。
いつか、そんなことを俺に言い放った女はコロリと意見を変えたのだ。
「私、君のこと好きみたいだ」
悔しいけど、と彼女は笑った。俺はというと、ただ呆然としていた。間抜けな顔で彼女を見つめていることしかできなかった。
「君も、こんな私のことが好きなんでしょ」
もちろんだ。俺は頷く。それを見た彼女はふわりと笑みを広げた。彼女が、時折見せる柔らかな表情に、どうしてか泣きたくなった。
「好きだ」
瞳に薄く水が張る。それは、彼女も同じだった。そっと、指を絡ませた。彼女は拒まなかった。
「責任、とってあげるから」
彼女が、照れくさそうにはにかむものだから、とうとう涙が零れ落ちた。