寝起きのローはスイッチが切れてしまっていて、いつもなら話しかけてもろくに返事もしてくれない。だけど、どうしてだか今日はパッチリ目が覚めているらしく、というよりも、おそらく昨晩は寝ていないらしく、立派な隈を目の回りにこしらえて、私の隣を歩いていた。


「言うまでもねェが、さみいな」

「そうだね」


ローは北生まれのくせに寒がりだ。だから、毎年冬はマフラーや手袋、耳当てまでして、モコモコに着込んでいる。しかも、自分の手先が冷えるとすぐに人の首に手を突っ込んでくるのだ。出会い頭にそんなことをするから、私は毎朝とっても迷惑している。そんな風に人の体温を奪っておいて、それでもまだ寒いのか、ローはさっきからずうっと歯をカチカチ鳴らせていた。


「この寒さをどうにかしろ」

「ホテルにでも行く?」


「温めてあげましょうか」なんて誘い方はおやじ臭いだろうか。ローがマフラーに深く顔を埋めた。私もそれにならう。


「朝から馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」

「えー?結構マジですよ?」


ローが空を仰いだ。私もそれにならう。空の色は薄くて、氷みたいだった。


「いつかガバガバになるぞ」

「うわ、最低。ロー、下品」


ローと私はのろのろ歩く。いつの間にか、ローが手袋を外していた。寒そうな指先をなんとなく見ていると、それが結んだり開いたりする。


「手繋ぎたいなら、言えばいいのに」


なんてことは言わない。さっそく私も手袋を外して、その手を取った。


「冷たっ!」

「文句を言うなら離せ」

「やーだね!」


私が笑うと、ローも微かに笑った。右手の熱がどんどん奪われていく。それでも構わなかった。ずっとずっと手を繋いでいたいと思った。


「愛してるぜベイベ!」


この手の熱みたいに、この気持ちも伝われば良いと思った。


/温めますか?
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