「俺が死んでも、お前はあいつと別れた時ほど悲しんでくれねェんだろう?」


細められた瞳が優しい。それがいっそう私には寂しく、悲しさが増す。頬を濡らす涙を見て、ローは柔らかな笑みを見せた。


「その涙も誰のものだか」


意地の悪い言葉があたたかく響くから、余計に辛い。
時に、優しさと寂しさはよく似て映る。
労るような手つきで私を撫でて、抱きしめてくれるけれど、本当に慰められるべきはローだ。ああ、それなのに、私はその体温に「彼」を重ねてしまう。


「ごめんなさい、わたし……」

「何も言うな」


声も香りもローのものなのに。私は「彼」に抱かれているつもりになって、その背に手を添えるのだ。

決して触れ合わない唇。沈黙の抱擁は、二人の暗黙の了解に他ならない。


この温もりを手放すことは出来ない。ひとりでは凍えてしまう。どうせ二人とも救われやしないのだ。それなら、いっそこのまま傷口を塞ぐように誰かと寄り添っていたい。
そんな風に考えてしまう。私は、なんて卑劣で屈託した女だろう。私など消えてしまえばいい。


白い月は、雲を被ってしまった。
隙間を埋め合うように抱き合っても、募るばかりの虚しさは、際限なく広がっていく。それは、いつか私を飲み込んでしまうような気がする。空恐ろしく、一方で、どうでもいい気持ちがした。


/卑劣な朧月夜
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