冬の朝はひっそりとしていた。通りには、人もいないし車もない。信号だけが健気に働き続けている。チカチカと点滅する青。誰が通るわけでもない。
私はキッドに手を引かれるまま赤信号を渡った。
「静かだね」
「ああ」
鼻の頭が冷たかったから、左手で覆って応急処置を施す。そう言うと、キッドが大袈裟だと言ってちょっと笑った。
それにしても静かな朝だ。こんな朝は何かを予感をさせる。そして、時には何かの答えが出そうな気がしたりするのだけど、まもなく始まる人々の生活音に掻き消されて、それもあっと言う間に忘却の彼方へ。「あれ、何だったかしら」なんてこと、少なくない。
街にぽつりぽつりと人の姿が見え始めていた。車が走り出し、人々が行き交う。音が溢れ出して、さっきまでの静寂は一体どこへやらだ。
「おい」
「んー?」
「今日の帰り、うちにくるか?」
朝は、はじまりだ。だって、いつだって私の朝は、淡い期待と儚い希望に満ちている。目覚めた時に素敵な朝だと思えなくたって、もしかしたら誰かさんが素敵な朝に変えてくれるかもしれないからだ。
「今日はいい日になりそう」
そんな独り言は、誰の耳に届くこともなく。隣の誰かさんは私の手を握り続けている。