なんとなく人が動く気配はした。キッドだってことはわかっているから、何も心配することはない。わたしは枕を強く抱きしめ直すと、そこに頬を擦り付けた。


「………」


静寂の後、腰のあたりのベッドのスプリングが軋んだ。背を向けていても、すぐそこに、キッドがいるのがわかる。

わたしの頭を撫でる手を想った。キッドはいつも、優しく、壊れ物でも扱うみたいに、わたしに触れる。

寝返りを打つと、髪をといていた手がぱっとなくなって、キッドは遠くに行くように、腰を上げた。わたしは、咄嗟にその手を掴んだ。彼の驚きが指に伝わる。


「……起きてたのか?」

「うん」


キッドは、わたしをじっと見つめたまま、もう一度ベッドに腰を下ろした。

寝とけ、と甘い声が囁く。わたしが頷くと、静かにキッドの唇がおでこに触れた。優し過ぎるそれが、なんだか怖くて、頬に触れた手を捉えて、指を絡めた。


「おやすみなさい」

「ああ……」


わたしは、その熱を抱きしめたまま、そっと目を瞑った。





「キッド?」


朝、目覚めたわたしの手の中には温もりはなかった。見渡せどシーツの波が広がるばかり。


「…………」


わかっていた。心のどこかで、わかっていた。キッドは、わたしがどんなに求めても、キッドは、わたしを置いていってしまう。わかっていたのだ。どんなに愛しても、置いていかれてしまうことくらい。


人を好きになるのは、どうしたって傷つく。簡単に心をかき乱され、不安になる。でも、だからといって、わたしはキッドを愛することをやめないし、やめられやしない。会えないほど狂おしく想う。募るばかりでは、いつか崩れてしまうのではないかと思う。さみしさに泣きたくなって、切なさに息も出来ない。けれど、わたしは今夜もその体温を待つだろう。わたしを置いていく愛しい体温をわたしは永久(とわ)に待ち続けるのだ。


なんて罪深い人。枕を抱いて恨み言を呟けど、誰に届くはずもない。


/ミッドナイトブルー
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