私の言葉に「いいぜ」とキッドが妖しく笑った。
机に酒瓶を置いたかと思うと不意にキッドの指が髪に差し込まれた。ウイスキー混じりの熱い吐息がかかる。伝染するように顔に熱が集まって、耳が燃えるような感覚がした。
「あ……っ」
抱き寄せられたと気づくより早くキッドの唇が私のと重なった。ぴたりと合わさったそれの柔らかいこと。想像以上の心地よさに戸惑っていれば、薄い唇が緩慢に動いた。もっと激しいキスを想像していた。だけど、ねっとりと唇を味わうキッドのキスに目眩がした。ぬるりと侵入してきた舌と共に苦味が広がった。そして、独特の香り。口内に広がったそれに、思わず顔をしかめる。これだから、ウイスキーは嫌いだ。あとから溢れてくる唾液が甘く感じられる。初めてのキスがこんな味だなんてと頭の隅で思った。こんなことなら「私の初めてを全部もらってください」なんて、言わなければ良かったかもしれない。
「まっ…!」
「喋るな」
言葉を奪うように、深みを増す行為。唇の間から、こもった声が漏れた。
息ができない。呼吸はどうすれば良いのだろう。タイミングがまったくわからない。口は塞がれているし、でも、鼻でするのは恥ずかしい。酸欠のせいなのか、或いはキッドから得たアルコールが回ったせいなのか、次第に頭が重たく感じられてきた。震える指先をたくましい胸板に添えた。とろけるような舌に翻弄される続け、腰は砕けてしまっている。力無くキッドに凭れかかると、机の上に組み敷かれた。
「や、ベッドが、いい」
私はキッドの首に腕を回した。長いながいキスのうちに、ウイスキーの味は二人の間で溶けていったらしい。
/whisk(e)y