「恋はフッ化水素みたいなもんだな」
やっぱり、ローって意味不明。勉強し過ぎておかしくなっちゃった?私はちょっと歩く距離を空けた。すると、ローが不満そうに唇を突き出す。あ、かわいい。
「フッ化水素はな、皮膚につくと骨を溶かすほど激しく燃焼するんだ」
「こわっ」
「恋愛も同じだろ」
「なにそれ。ロー、なにキャラだよ」
「凶悪だろ?フッ化水素も恋愛も」
「ああ。つまり、あれか。ロー、恋しちゃってんのか」
「実はな」
へえ、そんなピュアな心持ってたんだ。意外。私が目を丸くしているのを見て、ローがにやにや笑っている。ああ、せっかくのイケメンが台無しだ。
「あー、まあ、ローはかっこいいし、すぐ実るんじゃない?」
「かっこいいと思うか」
「うん、認めたくないけどね」
「タイプか?」
「いんや、どっちかというと、キッドの方がタイプ」
「クソスタス屋め」
「私は色白が好きなの」
「はあ?ふざけんじゃねェよ。そんなのどうしようもねェだろ」
「ふん、世の女の子をみんな虜に出来ると思うなよ。イケメンめっ」
「だから、お前の好みになんなきゃ意味ねェんだよ」
「はあ?」
ちょっと、何言ってるの?何だよそれ。それじゃあ、まるでローが私のこと好きみたいだ。
「え、まさか……」
「まったく、本当に鈍いやつだ」
「わ、私の一体どこが良いんですか」
「さあな。俺にもさっぱりだ。お前より良い女はいくらでもいるのに」
「ほ、ほんとだよ!」
「でも、恋なんだから仕方ねェだろ」
何せ骨まで溶かしちまうんだ、とローは笑った。恋なんだから仕方ありません、なんて。乙女の心が揺れちゃったよ。
「絶対振り向かせてやるから、気を楽にしてろ」
そんな高慢な台詞は、ローじゃないと出てこないよ。でも、馬鹿だなぁ。その自信に満ちた瞳に、ときめかないわけがないじゃんね。本当に、燃えて燃えて、心まで溶けてしまいそうだよ。
なんてね。
/フッ化水素