キッドは、かじかんだ手を拾って握ってくれる人じゃない。私たちは、間違いなくそんな恋人みたいな関係じゃなかった。ただ気が向いたら自慰によく似たセックスをして、暇ならご飯を食べて、天気が良い日曜日には散歩へ出掛けた。家も近いし、お互い一人暮らしだから、私とキッドは大体どちらかの家で一緒に過ごしている。もういっそのことルームシェアとやらをしてみないかと話に出たのだけど、万が一恋人が出来たときにかなりの不都合が起きるからやっぱり止めようということになった。


キッドがビールを買いに行くというので、私も生理用品を買い足しに行くことにした。部屋着にコートという頼りない装備は、足元がかなり冷える。寒い寒いと言い合いながら、なんとなしにキッドの腕に自分のを絡ませた。吐いた息が、もわっと広がって、サアッと消えていった。


「あーあ」

「んだよ」

「死にたいなあって」

「ふん。思ってるだけなら死なねェ」


でもね、キッドさん。

困っちゃうくらい時間は簡単に消費されていって、そうして前へ前へと押し出されるから、いつも私は仕方なしに歩いている。だけど、進んでいるんだか、足踏みしているだけなんだか、私には全然わからない。

わからないのですよ。


「本当、なんで生きてるんだか」


笑ったつもりが笑えていなかったらしく、キッドは不快そうに顔をしかめて、私を睨んだ。


「怒った?」

「怒ってねェよ」


意外にもキッドは生死に関わる話にはデリケートだ。でも私はこういう話題が結構好きだった。


「すぅって、消えないかなあ」

「無理だな」

「無理かぁ……」


不自然にキッドが顔を逸らしていた。私ははたと気づく。そうして、むずむずと込み上げてくる笑いに負けて、私はとうとう噴き出した。


「ぷ、あはは、泣かないでよ」

「泣いてねェよ!」


キッドに、自惚れるなよと睨まれた。消えてしまったら、この瞳に写ることもないのかと何だか勝手にさみしくなった。


「じゃあ私が消えたら、泣いてくれる?」なんて、言いかけたけど、でも、多分、キッドは、現実はどうあれ、今は曖昧な返事しかしないだろうから、やっぱり聞かないでおくことにする。


「ねえねえ」

「ああ?」

カナシンデクレル?


唱えかけた呪いのような言葉をひっこめて、私はうっすら微笑んだ。


「なんでもない」

「つーか、お前は……そんな簡単に死にたいとか言うんじゃねェよ。……面倒くせェから」

「うん。ごめんね」


謝ればいいのだ。私の言葉が実は彼を傷つけていたとしても、こうして謝ればそれで終わり。言われた方は堪らなくさみしいなんて、そんなこと知ったこっちゃない。だから、私はまたいつか同じ言葉を口にする。



/カナシンデクレル?
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