月も出ていない真っ暗な世界。真夜中に、何をするわけでもなく、ひとり浜辺に座り込んでいた。波の音に耳をすませる。押し寄せてくるものに抗えない。私は言いようのない悲しみにひたすら耐えた。目を瞑ってしまえば、世界から光は消えた。
「何かあったのかい」
頭上に降りかかった声にはっとして、私は慌てて涙をぬぐった。
「ちがう、んです」
「…………」
マルコさんは急に船を抜け出してきてしまった私を咎める気はないらしかった。それどころか、マルコさんは包みこむように私を抱きしめた。彼の手はうなじに回り、その指は慰めるように私を撫でている。
その間、マルコさんは何も言わなかった。じんわりと広がる熱。人の体温の優しさに胸が震えた。ぽんぽんと背を叩かれるのが心地良くて、彼の香りがあまりにも柔らかくて、私は悲しいのか嬉しいのか分からないまま、泣き続けた。
ひとしきり涙を流した私は、彼の腕の中で顔を上げた。
「ご、ごめんなさい」
「いいんだよい」
家族だからな、と。マルコさんは微笑んで、私の頭を撫でた。
こんな風に優しくしてくれる人がいるというのに、私はどうしていつも寂しさに負けてしまうのだろう。どうしていつも孤独を感じてしまうのだろう。一人になってしまうと、どうにも寂しくって、苦しい。
「うちに、帰ろう」
残念ながら、あの時なんと言って、青い不死鳥の背に乗ることになったのかは覚えていない。
空に吹く風はひんやりとしていた。闇は遥か彼方に下がって、次第に消えていく。眩い光が、世界を照らし始めた。空高くから見た朝日は、今まで見た何よりも美しかった。
世界は色鮮やかに輝いていた。あの素晴らしい朝を私は一生忘れることはないだろう。海が煌めき、空で青とオレンジが混ざり合って溶け合う。あたたかな世界。
淡い雲を抜けて、緩やかに下降していく青い炎を私はしっかり抱き締めた。
/真っ黒に塗り潰されていたキャンパスをあたたかく彩ったのはあなたでした。